追憶 ―混血の伝道師―
樹海。
言わば「深い森」…。
またの名を、
「迷いの森」と僕はいう。
その範囲は広く、
本来は容易に歩ける距離ではない。
この世界を、
「人間」の棲む大地と、
「妖精」が棲む大地とで分け隔てるもの。
面積にすれば、
世界の3分の1程…
僕の故郷の里を含む妖精の大地を、ぐるっと円状に一周取り囲むように存在する。
そんな説明をしていた。
「…樹海に入るのに、こんなに軽装で…お腹もすいて、大丈夫なんですか?」
「大丈夫ですよー」
「大丈夫じゃないですよ!?さっきから、ガス灯の1本さえ立ってないし!田舎にも程があるってゆうか…」
彼女は常にガス灯が点灯している街育ち。
スタスタ歩く僕に一生懸命に付いて歩きながら、彼女は不安と不満の声ばかりをあげていた。
ワフン…
『…意外にウルサいのね、ユリってば。あららー、俺様ビックリよ?』
「素直でいいんじゃない?コンに似てるよ」
『……はっ?』
「初めて人間社会に行った時は、借りてきた猫みたいに大人しかったじゃない小心者。慣れたら、こんなもんじゃない?」
『…そうかぁ?』
前を歩く僕たちがボソボソと話していると、後ろから彼女の不服そうな声。