追憶 ―混血の伝道師―
「…え?そうじゃない?」
あははは、
そう僕の笑い続ける声が、踏み入れた静寂の森の中に響いていた。
「お祖父ちゃんとも仲良いし、凄く信頼してるみたいだったし。生徒にも人気あったし…」
「…だから、実際に良い人じゃない、僕…。ねぇ、コン」
わふ…
『……はいはい』
なにも本気でそう思っている訳ではないけれど、一応は相手は生徒な訳だし、その仮面を剥がされたくはなかった。
しかし、
こう長い時間を一緒に居ると、
「先生、意地悪ですよね」
そうボロが出始める。
「…え~…?」
『ひゃひゃっ!!バレた!!』
「わざと肝心な事を説明してくれないし、私の反応を見て楽しんでません!?絶対そう!!」
「……あははは」
見抜かれてしまった。
せっかくの課外授業な訳だし、
説明なしに驚いて貰おう、
その反応で僕も楽しもう、
そう思っていたのは確かだ。
「まぁまぁ…。ほら、せっかくの『初めての樹海』を楽しんで?ガス灯の無い世界は不安ですか?」
ふてくされる彼女に肩を並べて寄り添うと、赤いランプを腕いっぱいに伸ばし、周囲の緑色を映し出した。
彼女は明らかに不安そうで、
意地悪が過ぎたと少し反省した。