追憶 ―混血の伝道師―
彼女は上ばかりを気にして歩くから、木々の根っこに足をとられて転びそうで、
「…はい、前を見て~」
僕は前方に注意を逸らした。
そこには、
コンの大好きな、
尻を青く光らせて飛ぶ虫たち。
ワン!!
『俺様、遊んでくる!!ミハル、後でな!?先に行ってるなっ!!』
コンは虫たちを追い掛けて、
早々に単独行動を始めてしまった。
「――ぇっ!!え!?コンちゃん!?追いかけなくていいんですか!?迷子になっちゃう!!」
彼女はそう焦っていたけれど、
「大丈夫ですよ。もう彼の庭みたいなもんだから。コンは僕よりも迷いの森に詳しいし」
そう呑気に笑う僕を見て、
彼女も心配そうな顔で、渋々納得をしていた。
「…庭って事は、本当に先生の故郷はもうすぐ?近いって事ですか?」
「…んー。難しい質問だね。距離で言えば、君が心配してた通り、森を抜けるには有り得ない程に遠いけれど…」
「――えぇっ!!?」
「まぁまぁ…。でも、時間で言えば、もうすぐ。」
「……は?」
彼女は眉間にシワを寄せて、複雑な表情だ。
「なぞなぞ」みたいだね。
僕はご機嫌を損ねないように、笑うのを我慢した。