追憶 ―混血の伝道師―


どうやら、
彼女は動物好きらしい。

猛スピードで駆け寄りベンチに飛び乗る無邪気な駄犬を、彼女は子供の様な笑顔で受け入れてくれた。

その楽しそうな表情を遠目から確認出来ると、僕はとりあえずは安堵した。


ワン!ワンっ!!

駄犬は僕を呼ぶ。
彼女もまた、僕を見る。

それは、
行かざるを得ない状況で、
僕は自分の荷物をまとめ、重い腰を上げて近付いた。


「…読書中にお騒がせして…申し訳ない」

片手を頭に当て、僕は苦笑いを浮かべて声を掛けた。


「いいえ、全然。ずっと気になっていたんです。」

「……え?」

「ずっと触ってみたかったんです、可愛いワンちゃん。人なつっこいですね?想像以上に可愛い!嬉しいです~」

気になっていた、
その言葉に少し戸惑った自分が恥ずかしい。

…あぁ…コイツの事ね?

駄犬に瞳を落とすと、
やはり無邪気に黒い尻尾を振り回している。


「すみません、バカな犬で…」

呆れ口調な僕の言葉に、駄犬の尻尾がピタリと止まった。
ジロリと睨まれる。

――ワン!ワンワンっ!!

そう怒られる。


「…あぁ、ごめんな」

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