追憶 ―混血の伝道師―
「――凄い!ワンちゃん、まるで言葉を理解出来るみたい!」
彼女はそう興奮して、この駄犬さながらに瞳を輝かせていた。
「……あはは」
笑って誤魔化すしかない。
そう、
この駄犬は、
人間の言葉を理解する。
そして、
ワンワンっ!!
『――お前っ!!ふざけんなよなっ!!俺様のどこがバカだって言うんだっ!!バカってゆー方がバカなんだぞっ!?バーカっ!!』
僕もまた、
この駄犬の言葉を理解する。
それは一般的には理解出来ないだろう不可解な事で、僕は大抵は知らない振りをして笑って誤魔化すのだ。
「…あの、お名前聞いてもいいですか?」
彼女はそう首を傾げた。
僕の?犬の?
この流れは犬だろう。
もう下手な期待は持たない。
「…バカ犬のコンです」
「あはは、コンちゃん?宜しくね、コンちゃん!!…あぁあ、また怒ってますよ?先生…」
先生、
そう彼女は僕を見た。
『まだ言うのかっ!!』
そう僕に飛びかかるコンを片手で簡単にあしらいながら、首を傾げた。
「……あれ?僕の事、もしかして知ってます?」
「はい、有名ですもん。大学構内で毎日犬を連れてる先生は珍しいでしょう?」
「……生徒さんでしたか」