Forget me not~勿忘草~
◯◯さんもちょっと気まずそうに、僕の方に先に酌をする。



いつもの照れ隠しにしては…ちょっと妙だ。




おずおずと土方さんに酌をしようとする◯◯さんにぶっきらぼうに盃を差し出す。




(で…呑むよねぇ…)



あ、やっぱり呑んだ!




今度は眉根も寄せずに、スイッと飲み干している。



空になった盃のフチを器用に指で拭って…かぁっこいいねぇ!




思わずプククッと笑いが込み上げる。





ジロリと睨まれたけど、怖くなんか無い。



土方さんは本当に面白い。




ほら、またお酒注がれちゃって…




「…お茶にしましょうか?」




「…ああ」




あれ…気がついた?



ちょっとびっくりしちゃったな…土方さんがお酒苦手なの、皆知らないのに…




「よく気づきましたねぇ」



素直にそう誉めると、◯◯さんがちょっと頬を染める。




「何度か、新選組の皆さんのお座敷に呼んで頂きましたから」




…なるほど。



大勢での宴会でも、土方さんのことはよく見てるってことか。




(あ…こういうのをアテられたっていうのか、ふむ…)




また一つ、勉強になった。




二人で目と目を合わせて微笑み合っちゃって…




あれ…そうでもないか



土方さんはお茶を啜りながら、やっぱり苦い表情で。




「どうしたんです?土方さん。◯○さんが困ってますよ?」



見かねて声をかけると、土方さんがワシワシと頭を掻いて吐息をつく。




「なんだって、お前が来たんだ」





「え、えと…菖蒲さんの名代で…」



泣き出しそうな顔で◯◯さんが小さく応えるのに、土方さんの渋面は変わらない。



「…すみません…私じゃ、だめです…か」





消え入りそうな声で、身を縮める◯◯さんが可哀想になってきた。




「ちょっと、土方さん!苛めちゃダメですよっ」







ああもう、と土方さんが諦めたように口を開く。



「…違う、振袖新造じゃダメなんだ」





「◯◯、お前が悪いわけじゃねえ」




キョトンとしたのは僕と◯◯さんの二人…どういう意味だ?



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