Forget me not~勿忘草~
「あの…っ、私、一生懸命やりますからっ」




…一生懸命ヤルったって、こればっかりはさせるわけにはいかねぇ。



ド天然な総司と、ガキのコイツに察しろって方が無理か…




(だから菖蒲に来させろと逢状を出したのに…藍屋め)




藍屋が「良かれと思って」◯◯を土方の座敷に回したなぞ、



知る由もない土方は小さく吐息をつく。


『総司を一人前にして来い』ったって…近藤さんよ…




どうしても女に疎い総司に、いい加減所帯を持たそうという目論見で。



でも所帯を持つ前にすることがある、と云わば局長命令でここに来たのだ。





なのに…




なんのことやら…とキョトンとしている総司と



オロオロと泣きそうな◯◯とを見比べて…




(無茶言うなよ…いきなり振袖新造に手ぇ出させるなんざ…)




いや、局長命令でも…俺が我慢できねぇ。




フゥーッともう一回大きく溜息をついてから一息に言った。



「総司、お前は今日ここに泊まれ」




「ふぇ?」



モグモグと膳のものを口に入れたまま、素っ頓狂な声を出す総司。



「おい、◯◯…菖蒲は後で来るのか?」




「は、はい…お座敷がこれ以上重ならなければ…」



ふん…



このまま、総司を帰らせたら近藤さんに何を言われるか…



とりあえず朝までここに居させるしかあるまい。




「じゃあ、悪いが菖蒲が来るまで総司の相手を頼む」



「俺は帰る。◯◯、お前も菖蒲が来たら帰れ」




「え…でも…」



普段なら、菖蒲が来てからも横について



花魁の手伝いをするのが◯◯の仕事だ。




不審がるのはわからねえでもねぇが…



―ホントにわかんねぇのか?




「いいから、菖蒲が来たら帰れ。…総司と二人にしろ」



「菖蒲と総司の二人、わかるな?」




そう言い含めると、やっと◯◯は顔を赤くして



小さく「はい…」と頷いた。


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