Forget me not~勿忘草~
よし、これでいい…と腰を上げようとしてグイッと裾を引っ張られる。




「菖蒲さんと私の二人でここに居たってつまらないでしょうよ」




「みんなで一緒に投扇興でもしましょうよ…」



ふくれっ面をして裾を引いたのは◯◯ではなく、総司だった。




もう手に負えない…



◯◯でさえわかるのに、お前って奴は…








土方さんは、目を三角にして睨んだ後、



沖田さんの襟首を掴んで屏風の影に引っ込んで…



屏風の影からは、沖田さんの情けない声が…



「ええぇ~、イヤですよぅ~」




「うるせぇ、局長命令だ」




―そんなやり取りの後、土方さんは「またな」と帰ってしまい…



沖田さんと二人でお座敷に取り残されてしまった。


(行っちゃった…)



もう少し…土方さんとお話したかったな…




でも…




ポツンと取り残された気分なのはきっと、沖田さんも同じかも知れない。



そう思って沖田さんを見ると



湯呑みに、お酒を注いでカパカパと…



「お、沖田さんっ!」



「すみません、お酌しますから!そんないっぺんに飲んだら…っ」




「ん…早く酔ってしまいたいんです」



そう言いながら湯呑みを口に運ぶ彼は



まったく酔ってなんかいないみたいに涼し気な顔をしていて…




「だ、大丈夫なんですか?」



彼はお酒が強いみたいだけど…





沖田さんは顔色も変えずに湯呑みを呷(あお)る。



「さあ…どうなんでしょうか」





涼し気な口元をクスリと歪めて微笑む。



「どれほど飲んだら酔えますかねぇ?」




なんだかヤケになってるようにも見えて



沖田さんの手を押しとどめるけど…





でも沖田さんはニッコリと笑みを深めて…




「止めないで下さい。酔わなきゃやってられない…」





「僕が何を言われたか、おわかりなんでしょう?」




その笑みはそのままに、透明に呟いた。




(…!)




「…僕は、おかしいんでしょうね」




「でも好きでもない人と、そんなことしなきゃいけないなんて…」





「…お酒の力でも借りないと、到底無理ですから」




柔らかに微笑んでいるのに…



どこか自嘲めいて悲しげに響く声。




(あ…)




「貴女も、もう帰って頂いていいですよ」




「ああ見えて、土方さんはヤキモチ焼きですからね」




「きっと今頃ジリジリしてますよ」



そう言うとフフッと笑って酒を満たした湯呑みを口へ運ぶ。








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