Ghost of lost
 地下鉄の走りがもどかしかった。
 トンネルの中を轟音を立てて進んでいるのだが、勇作の気持ちはそれよりも更に先を走っていた。もしも姉のいったことが本当ならば、リサは操に対して何をしているか解らない。普段何もない時は甘えてくる可愛いとさえ感じる存在なのだが、いったん機嫌を損なうとかなり気性が荒い、それがリサだった。その激しさが操にどのようにぶつけられているかが解らない。それが怖くもあった。
 やがて地下鉄は地上に出た。
 県境の大きな川を越え、次第に勇作にとっても懐かしい景色が車窓を流れていった。
 操の住む街まではあと少しだった。
 勇作は胸のポケットからスマートホンを取り出すとあの日に聞いた操の携帯電話の番号を入力した。
 一回、二回、三回…。
 受話器の向こうから呼び出し音が聞こえてくる。だが、操が出ることはなかった。
 勇作は一度電話を切り、今度は操の家の番号を入力した。今度は三回ほど呼び出し音が鳴った後、聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。
「はい、西田でございます」
 それは操の母の声だった。何処か沈んだ様に感じられる。
「お久しぶりです、岸田です。操さん、いらっしゃいますか?」
 勇作はさりげなく操の所在を聞いた。すると操の母の声が一段と沈んだ。
「操はね、今入院しているのよ」
「何処か悪いんですか?」
「いいえ、昨日交通事故にあってね。足を複雑骨折してしまって…」
 リサの仕業だ、勇作は咄嗟にそう感じた。まさかとは思ったが、彼女が此所までするとは…。それは湯策が予想していた以上の事だった。
 リサは操を排除するという方法を彼女の死という形で実現しようとしているのかもしれない、勇作の脳裏に言い知れない恐怖が浮かんだ。

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