Ghost of lost
 操が入院している病院は彼女が住む街の駅より人つてまいの駅にあった。大学の付属病院であるそこは駅のホームから建物を臨むことが出来る小高い丘の上にあった。
 改札を抜けるとバスタームなるの片隅に数台のタクシーが客待ちをして並んでいる。その殆どは駅から病院に向かう患者を目当てにしていた。
 勇作はそのうちの一台を捕まえて行き先を告げた。タクシーの運転手は慣れた鉄域でハンドルを操作している。病院まではワンメーターの距離だった。程なくタクシーは病院の入り口の前に止まった。
 勇作は病院に入ると受付で操の病室を聞き出し、そこに向かうエレベーターに乗り込んだ。
 操の病室は病院の五階にあった。この居病院はキリスト教系の物であるためか、建物が上から見ると十字の形をしていた。エレベーターは中央部に六機あり、各病棟はエレベーターホールから十字型に展開されていた。
 操の病室は整形外科病棟の六人部屋であり、病棟を貫く通路の一番端にあった。
 勇作は病室入り口の名前を確認して部屋に入っていった。病室の窓際に操の姿が見える。そこにリサの姿は見えなかった。ベッドに近づいていくと操は起きて本を読んでいた。ベッドの端につり上げられた右足が痛々しい。
「やあ、大変だったね」
 勇作が声をかけると操が顔を上げた。頬に赤みが差した様に見える。
「岸田君、来てくれたの」
 操は勇作を見てはにかみながら微笑んだ。
「一体どうしたんだよ、車にはねられるなんて…」
「うん、私がぼんやりしていたんだ。交差点で信号待ちをしている時にうっかり蹌踉めいてしまって…」
「よろめいた?」
「そう、まるで後ろから誰かに押されたみたいに。でも、そんな人はいなかったのよ」
 たぶんそれはリサだ。彼女が操を排除しようとしたのだ。彼女はそこまで危険なことをして勇作から操を遠ざけようとしたのだ。
 一歩間違えたら死んでしまうかもしれないのに…。
「昔とちっとも変わっていないな。ぼんやりしている所は…」
 勇作はごまかしながらも周囲に目を配った。操を排除することは結果的に失敗している。それならば、まだリサはこの近くにいるはずだった。何とかリサを見つけ出し、操から離さなければならない。恐らくリサはこの近くに潜んでいるはずだ。勇作はそう思い、操ととりとめのない会話をしながらも周囲に気を配った。
 だが、リサの気配は何処にもなかった。
 三〇分ほどとりとめのない会話を楽しんで湯策は病室を後にした。とりあえずリサは操の近くには居ないらしい、それだけでも勇作の気持ちは楽になった。

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