Ghost of lost

　その夜、勇作の所にカオリ姿を見せた。いつもなら人を圧倒する様な雰囲気を持っているのだが、この日の彼女はその勢いがなかった。
「なあ、此所にもリサは返っていないのか？」　どうやらカオリのとこりにもリサは行っていないらしい。カオリ達の所に行ってくれていたらという勇作の気持ちは見事に裏切られた。
「いや、このところ姿を見ていない…」
　そう言うと勇作はリサが姿を消す前に起きたことを簡単にカオリに話した。
　カオリは黙って勇作の言葉を聞いていた。その話が進んでいく中で彼女の表情は次第に暗くなっていった。それは勇作が初めて見る彼女の表情だった。
「カオリさん、一体どうしたんだい？いつものあなたらしくないけど…。」　
「何でもないさ、私はいつもの通りさ」
　カオリはかぶりを振ったが、やはりいつもとは違う。声にも張りがなかった。気持ちが此所になく何処か遠い所に向いている様にも見えた。何か心配事があるらしい。
「もしかして、リサの事じゃないの？」
　勇作の言葉が彼女を少しだけ動かした。
「ああ、前にもあったんだ。あいつが不意にいなくなっちまうことが…」
　その時に何かあった。だからカオリは不安げな表情を見せているのだ。勇作はそう直感した。
「その時、何があった？」
　カオリは暫く俯いて何かを考え込んでいたが、やがて重たい口調で口を開き始めた。
　リサは以前にも突然何処かに消えてしまったことがあったらしい。勇作の前の移住人がリサのことを感じていたのだが、彼女と接触はしなかった。リサは自分の存在に気づいて欲しくていろいろな現象を起こして見せたのだが、その住人は全く関心を見せなかった。そんな日々が何日か続いた後、リサは突然姿を消した。そしてその住人はトラックに撥ねられ、この世を去ってしまった。
「あの子は感情が不安定なんだ。他人に対する関係も…。とても仲の良い関係を持っていたと思ったら一寸した切っ掛けでまるで敵同士みたいな接し方をする。そうなると手に負えない。相手に思い知らせるためにとんでもないことをやってしまうんだ」
　カオリは左手を自分の額にあてて首を左右に振った。
「今度はあんたの友達を標的にしるらしい…」「デモ彼女の傍には居なかったよ。それに彼女は事故に遭っているし、もう諦めたんじゃないかな？」
「いや、リサは諦めたりなんかしないさ。今も近くにいて隙を狙っている筈さ。そしてあんたも狙われるかもしれない…」
「何故僕が？」
「あんたはリサを裏切ろうとした。リサはそう思っている」
　カオリは脅えた眼で勇作を見つめていた。