Ghost of lost
 リサは勇作の元に戻ってきた。
 彼女の中には相変わらず操を排除したいという気持ちがあったが、勇作の「傍に居る」という言葉を信じて彼の所に戻ったのだ。
 あの後、屋上から戻った勇作と操は二人の姿を認めた看護師にこっぴどく叱られた。特に操は骨折している身であったから酷く怒られた。今度同じことをした場合、ベッドに拘束するとまで言われてしまった。
 しかし、何故操は足を怪我している状態であの場所に行けたのだろうか?
 操に確かめても彼女にはその記憶がなかった。ただ足からの激痛の記憶はあった。
 恐らくリサは操の身体を自由に動かし、その妨げとなる痛みだけは操に押しつけていたらしい。
 勇作は屋上であったことは自分の胸の内に留めておこうと思った。
 小雨になった中を勇作はスクーターで走っていた。タンデムシートにはリサがちょこんと座っている。濡れた路面の上でスリップをしない様に身長に走っていく。ソロットルは半分程度しか空けていなかった。
 赤い手r-るランプが次々と走り去っていく。その流れを無視する様に勇作はゆっくりとスクーターを走らせた。来る時には気にならなかったが、濡れた服が身体に張り付いて気持ちが悪い。
「勇作、ごめんね。」
 リサの言葉が頭の中に浮かぶ。
 勇作は応えない。
「まだ怒ってる?」
「少し、ね」
「もうあんな事しない…」
 リサの言葉には力がない。
「約束、するから…」
「うん、約束だ」
 湯策はそう言うと左手をハンドルから離して腰の所に回されているリサの腕に添えた。
 雨の街が二人を包んでいる。
 リサの頬に伝うものが雨だったのか、勇作には解らなかった。
< 30 / 50 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop