Ghost of lost
 翌日、穏やかな日常が戻ってきた。リサは昨夜のことがまるで無かったかの様に勇作に懐いている。この変わり身の早さに勇作は不安を感じていた。
 機嫌の良い時のリサは妹の様に可愛く愛おしかった。だが一度機嫌を損ねてしまうと手に負えないほど暴走してしまう。それが怒りであった場合、どんな危害を加えるか解らない。感情の変化が激しかった。
 これがボーダーラインというものなのだろうか?
 勇作の脳裏に姉、理恵の言葉が木霊の様に響く。
 確かに昨夜、リサから離れないと約束した。約束はしたのだが、こんな状態が続いたら正常な人間関係は維持できない。だからといって突き放してしまえばリサは何をするか解らない。逃れることの出来ない状況に自分が置かれていることに勇作は気づいた。
 一体どうしたらいいのだろうか?
 勇作は途方に暮れていた。
 こんな時、頼りになるのは姉の理恵だけだった。少なくとも姉はリサのボーダーラインの疑いがあることを指摘していた。ならば解決法も知っているはずではないか。勇作は姉に連絡を取るべきだと思った。
 だがリサの居る前ではそれも出来ない様に感じた。姉に相談する限りは昨夜の一件を居離さなければならないだろう。それをリサの居る前で行った場合、彼女がどのような反応を示すかが解らなかった。あれだけの激しい反応を示したのだ。自分や姉を傷つける可能性もあるのだった。
 こういう時にカオリ達が居てくれたなら…。勇作がそう考えていた時、カオリとカノウが姿を見せた。
「リサちゃんが戻ってきたんだって?」
 二人は笑って勇作に言った。
「何とかなったみたいだな」
 カオリが勇作の肩を叩く。
 勇作は軽く頷く。
 なんといいタイミングで現れてくれたのだろうか。勇作はリサに悟られない様にカオリを部屋の外に導いた。
「カオリさん、お願いがあるんだ」
 勇作の口から思いもよらない言葉が出たことにカオリは怪訝そうな顔をした。
「実は夕方までリサを連れ出して欲しいんだ
 そこまで言うと勇作は昨夜の出来事や理恵の見立てなどを簡単に話した。
「それであんたは姉さんに相談に行こうって言うんだね?」
「うん、その方がリサにとっても良いと思うんだ」
 勇作の提言にカオリは暫く考え込んでいたが、リサのためにも良いという言葉に彼の申し出を受けることにした。
「ありがとう、恩に着るよ」
 カオリに礼を言うと勇作は姉の病院に向かった。
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