Ghost of lost
「そう、そんな事があったの…」
 すらりとした細い足を組んで理恵は考え込んでいる。
「まあ、相手の女の子にはリサさんが見えなかったんでしょうけど、目の前で告白されたんじゃあリサさんも面白くないわよねえ」
「デモそれだけで殺そうとするなんて極端すぎる様な気がするんだ」
「そうねえ、境界例らしいっていえば、いえるわよねえ…」
 そう言うと理恵は黙り込んでしまった。
 何処かから外の街の音が忍び込んでくる。街は勇作の悩み事など関心もない様にいつもと変わらない様相を見せていた。時計が時を刻んでいく。
 どのくらい時が過ぎたのだろうか、胸の前で腕を組んでいた理恵がおもむろに口を開いた。
「彼女の死因、自殺じゃないかしら」
 それは思いもよらない言葉だった。
 確かにリサの死因については勇作も気になる所だった。あの年代なのだから自殺という事も頷けないではない。けれども、彼女の表情からはそこまで思い詰めている様子は感じられなかった。
「何故自殺だと思うんだい?」
「前にも行ったと思うけど、境界例は自分の望む様にするには手段を選ばない事があるの。人を自分に引きつけておくためなら自殺だってしかねないのよ。大抵は未遂に終わるんだけど、何度も繰り返しているうちに本当に死んでしまう事もあるのよ」
 今度は勇作が考え込んでしまった。
 一体リサに何があったというのだろう。たとえリサが境界性人格障害(ボーダーライン)だとしても、自殺を図るという事はよほどの事があったに違いない。その事が彼女の記憶を失わせているのかもしれない。リサの過去を知っておいた方が良いのではないか。知っておいた方が彼女のためになるのではないか。
 勇作の心にそんな重いが浮かんできた。
「姉さん、僕、リサの過去を調べてみようと思う」
 勇作の言葉が診察室の中に吸い込まれていった。
「一寸待ってよ。彼女の記憶を取り戻させようというの?」
「いいや、僕の胸のうちに収めておくつもりだ。リサに何があったのか、知っておく必要があると思うんだ」
「調べるっていっても、手掛かりはあるの?」
「ない、事もない…」
 勇作は自信ありげに言った。



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