Ghost of lost
「あなたのいう『普通の人』ってどんな人?あなたやあなたの周囲の人のようなことをいうんじゃない?」
 理恵はそういうとすらりとした足を組んだ。「そうだよ、少なくとも僕は普通だと思う」
「それは『自分の価値観』じゃないかしら?」
「僕の価値観…」
「そうよ、あなたが『あの人はいい人だ』、『あの人は悪い人だ』と感じるのは自分の価値観でしかないの。そして、その価値観を他人に押しつけられたらあなたはどう思うかしら?」
 理恵の表情はどこか勝ち誇っているようにも見えた。
「それは…、面白くないよね」
「それは境界例の人も同じなのよ。ましてやあれほど激しい反応をするでしょう。きっと激しく拒絶するわよ」
 それでは救いがないではないか。亜里砂を変えようとしてはいけないのならば、これからどのように接していけばいいのだろうか?
 勇作はわからなくなってしまった。
「まず、相手を変えようとしないこと。リサさんは『こういう人なんだ』と割り切ってしまうこと。リサさんをそのまま受け入れたしまうこと。それが境界例の人とつきあっていく最初のステップなのよ」
 理恵は困惑している勇作にかまわずに先に進んでいく。
「一つの方法として境界例の人の行動を記録に留める、という方法があるわね。記録をとることによって相手がどういうときにキレ手しまうか、その兆候がわかってくるはず。あるいは周期的なものであった場合、その時期にきたら言動に注意することもできる…」
 そこまで理恵の話を聞いて勇作は彼女が何をいわんとしているのかがわかった気がした。
「それは僕が変わればいいということ?」
 その言葉を聞いて理恵は和外を得たりという表情をした。
「そう、あなたがリサさんのありのままを受け入れて接していけばいいのよ。それから境界例の人は『見捨てられ不安』が強いからそれを意識して接することね。それからあなたに訊くけど、あなたとリサさんって恋人同士なの?」
 理恵にそういわれて勇作は愕然とした。確かに自分はリサを愛おしいと思っている。けれどもそれは彼女に対して恋愛感情を持ってそう感じているのだろうか?
 いや、恋愛感情ではないのかも知れない。 リサと初めてであったとき、彼女の事情を知ったとき、自分はどう思ったのだろうか。加代わっくて、儚くて、そのままにしておけないと思ったのではないか。
 それは恋愛感情とはいえないもののように勇作は思った。
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