Ghost of lost
「勇作ぅ」
部屋の扉を開けたとたんリサが飛びついてきた。押しつけてくる体の感触が微かにあり、ほのかにシャンプーの香りがする。どうやら思いが強ければ肌で触れることもできるし、香りもわかるようになるらしい。
「寂しかった、寂しかった、寂しかったよぉ」
リサは思いっきりまとわりついてくる。それが可愛くもあり、反面不安にもなる。これから理恵の言った通り適切な距離を保てるようにしていかなければならない。その中でリサはどのような反応を示すのだろうか?
そう考えながら勇作は幼子を慰めるようにリサの頭を撫でてやり部屋の中に入った。
「おや、帰ったのかい?」
狭い部屋の奥の方からカオリの声がした。 隣にはカップ酒をちびりちびりと飲んでいるカノウの姿が見える。カオリの顔も少し赤らんでいるようだ。
勇作は深い溜め息をついたが、二人に礼を言った。
「用事は済んだのですか?」
少し呂律が回らない様子でカノウが言った。
十分よっている様子なのにカノウはやけに丁寧な言葉を使っていた。
「まぁとりあえず、というところですが…」
勇作は曖昧に答える。
理恵の所に行った本来の目的を彼女たちには知られたくなかった。
「まだうまく眠れないのかい?」
カオリが心配そうな表情を見せる。
普段は荒っぽい彼女だが、こういった気遣いができる人だった。
「まぁ、大分良くなってきたんですけどね」
それは嘘だった。
だがその嘘は誰にも気づかれてはいないようだった。
そんな会話をしている中でリサは勇作にぴったりと体を寄せていた。勇作が視線を向けるとリサは潤んだ目で見つめ返した。
「じゃあ私らは帰るわ」
カオリがそう言うと二人はスッと消えていった。
後には酒宴の残骸が残された。
飲み干された缶、食べ残された乾き物類、散らかされた部屋を片づけるのに小一時間ほどの時を必要とした。
夏の長い陽も暮れて辺りは薄暗くなっている。
リサは窓辺に立ち明かりがつき始めた家々の陰を眺めている。その横顔に微かに憂いが見いだされる。勇作は背後からそっと近づきリサの肩に両手を置く。
「家が恋しいのかい?」
優しく声をかける。
「わからない。なんだか胸が締め付けられるようで…」
リサの声は沈んでいる。
この子はやはり迷い子なのだ。
この子にも両親や友人がいたはずなのだ。帰りたいという気持ちはあるはずなのだ。ただそれを忘れてしまい、居場所がないから此処にいるのだ。頼る者がないから勇作を頼るのだ。
「帰りたいかい?」
耳元で囁く。
「いいの、勇作が此処にいるから…」
頭を振ったリサの目は潤んでいた。
部屋の扉を開けたとたんリサが飛びついてきた。押しつけてくる体の感触が微かにあり、ほのかにシャンプーの香りがする。どうやら思いが強ければ肌で触れることもできるし、香りもわかるようになるらしい。
「寂しかった、寂しかった、寂しかったよぉ」
リサは思いっきりまとわりついてくる。それが可愛くもあり、反面不安にもなる。これから理恵の言った通り適切な距離を保てるようにしていかなければならない。その中でリサはどのような反応を示すのだろうか?
そう考えながら勇作は幼子を慰めるようにリサの頭を撫でてやり部屋の中に入った。
「おや、帰ったのかい?」
狭い部屋の奥の方からカオリの声がした。 隣にはカップ酒をちびりちびりと飲んでいるカノウの姿が見える。カオリの顔も少し赤らんでいるようだ。
勇作は深い溜め息をついたが、二人に礼を言った。
「用事は済んだのですか?」
少し呂律が回らない様子でカノウが言った。
十分よっている様子なのにカノウはやけに丁寧な言葉を使っていた。
「まぁとりあえず、というところですが…」
勇作は曖昧に答える。
理恵の所に行った本来の目的を彼女たちには知られたくなかった。
「まだうまく眠れないのかい?」
カオリが心配そうな表情を見せる。
普段は荒っぽい彼女だが、こういった気遣いができる人だった。
「まぁ、大分良くなってきたんですけどね」
それは嘘だった。
だがその嘘は誰にも気づかれてはいないようだった。
そんな会話をしている中でリサは勇作にぴったりと体を寄せていた。勇作が視線を向けるとリサは潤んだ目で見つめ返した。
「じゃあ私らは帰るわ」
カオリがそう言うと二人はスッと消えていった。
後には酒宴の残骸が残された。
飲み干された缶、食べ残された乾き物類、散らかされた部屋を片づけるのに小一時間ほどの時を必要とした。
夏の長い陽も暮れて辺りは薄暗くなっている。
リサは窓辺に立ち明かりがつき始めた家々の陰を眺めている。その横顔に微かに憂いが見いだされる。勇作は背後からそっと近づきリサの肩に両手を置く。
「家が恋しいのかい?」
優しく声をかける。
「わからない。なんだか胸が締め付けられるようで…」
リサの声は沈んでいる。
この子はやはり迷い子なのだ。
この子にも両親や友人がいたはずなのだ。帰りたいという気持ちはあるはずなのだ。ただそれを忘れてしまい、居場所がないから此処にいるのだ。頼る者がないから勇作を頼るのだ。
「帰りたいかい?」
耳元で囁く。
「いいの、勇作が此処にいるから…」
頭を振ったリサの目は潤んでいた。