キス魔なあいつ
あたしとあいつの必要性
あたしはようやく着いた家の鍵を右に回した。
「……?」
開いた手応えのある音がしない。
まさかと思えば、やはりドアノブは簡単に回った。
そして、開かれた玄関には、当たり前のように悠の靴がある。
「ただいまー」
声を上げたあたしに返ってきたのは、静寂だった。
本当に、シーン…、と聞こえる気がする。
おかしい。
これは、おかしい。
いつも、先に悠が家に来ていれば悠は、子犬がしっぽを振るようにして出てきて。
『陽菜っ!お帰りっ』
なんて、騒がしい出迎えをしてくれるのに。