僕らはみんな、生きている。
 秀司は真っ黒になったから揚げに視線を落としていた。

「だんだん見えなくなってきたんだよ。
 トリの幻覚」

 そうなんだ。
 きっと薬が効いたんだ。

「どういうトリが出てくるの?」

「鳩(はと)をでかくしたような感じ。ダチョウぐらいのときもあって……」

 秀司はトリが本当にいるかのように話した。
 でも、その幻覚を私は否定してはいけない。
 本に書いてあった。だから、いつもと同じように、黙って話を聞いてあげる。

 それくらいしかない。私にできることなんて。

 秀司の見た幻覚、いや、トリは私には見えない。
 だから想像するしかない。


 昨日のゆかりとの会話を思いだす。
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