その腕で
その腕で
彼と一緒にいるようになって、何年の月日が過ぎただろう。
この間の彼女も、その前の彼女も知っている。
彼には彼女が必要。
でもそこにあたしがいることは出来ない。
袖を捲った腕が誘っているようにしか見えないのに。
浮き出た血管に、しなかなライン。
その血管をつい指でなぞりたくなってしまう。
不意に手を伸ばしても冗談と弾かれそうで。
程よく筋肉のついたその腕に求められたくて。
「いつまで見てんの?」
「……いつまでも」
その腕にあたしが包まれることはなくても。
「抱き締めて欲しい?」
わざとらしく笑うのが憎くて、つい嘘を吐く。
いいのよ、と。
すると彼はまた笑う。
その腕を掴んで、その腕を引き寄せて、その腕で抱き締めて欲しいのに。
あとどれくらい待てば、彼から抱き寄せてくれるのだろう。
その、胸が疼く程の腕で。