おじいさんと孫(仮題)
飛び起きる、という動詞があるが、まさにその通り。気が付けばベッドの上に座っていて掛け布団は床に。心臓がドキドキと鳴ってるのを聞きながら、飛び起きたのだ、と思った。
鼓動が収まるのを待って、ゆっくりと息をする。何の夢を見ていたか思い出せないが、何か、開放されたような安堵感に包まれた。古い置き時計の秒針がカチ、カチ、とそこそこ大きな音を立てて時を進めているのを聞いて、漸く今の時間を知る。
午前7時を過ぎたところ。
少し支度をするには早いが、まぁ早くても悪いことはない。
大きく伸びをすると ベッドから降りることにした。
「よっこらせ…と」
声をかけながら起き上がると我ながら年寄りくさいな、と思う。まぁ、実際に年寄りなんだから問題はないだろう。
ベッドから降り立てばスプリングが少し軋んだ音を立てた。板張りの床はひんやりとしていてベッドの中で温められていた足を急速に冷えさせる。そのまま歩いて寝室に備えられたクローゼットにを開ければ 吊るされた白いワイシャツを手にとった。一見シンプルなデザインのそれは実はオーダーメイド。既製品は好きになれない。着た時、「私があなたに合わせているのよ」そういう風に言っているように見えるのだ。つまり、着せられているような感覚。あれが好きになれない。やはり、服は自分に合わせなければ。ワイシャツにループタイ、黒いスラックスを合わせて、そうして着替えを済ませると、寝室の隣にあるダイニングキッチンへ移り少し早めに朝食をとる。
今日の朝食はパンが一つと紅茶を一杯。
朝に飲む紅茶は香り高くいれないと目が覚めない。我流ながらもそこそこに良い味が出てるだろうと密かな自慢だ。
朝食を終えると、今度は店の支度が始まる。
私の店はアンティークショップをやっている。こじんまりとした狭い店内には、私の趣味と想いが詰まったアンティーク雑貨が配列している。どれもこれも私の目で見て鑑定し買い付けたもので、想いいれがあるものもある。
私の家、居住スペースは二階にあるため、一階が店になっていた。
棚やテーブルの上に配置された雑貨たちに囲まれるようにして、店の奥の真ん中にレジカウンターが設置されていた。このレジカウンターは大きめに作っており、客がここで紅茶や珈琲を飲める仕組みになっていた。言うなら、アンティークショップ兼カフェといったところ。まぁ、あまり大々的にやっているわけではないので、ここで注文をする客は少ないのだが。まず、一見さんはなかなか来ない。
店自体が小さく、細々とした街の乱雑とした建物の間にあるのだから人が気付かないのも無理は無い。それでも構わないので改善する必要もないと思っている。