おじいさんと孫(仮題)
「…どなたですか?」
 
だから、この質問は間違ってない筈だ。
 なのに、彼は少し不満そうな顔をした。
はっきり表情にだした訳ではない。
しかし、私にはそう見てとれた。
瞳の奥、彼の目はそう訴えていた。 
 
「 …すみません、まだ、お店あいていないんですね。」
 
「ああ、今日は11時からの予定なんですが…」
 
「そうですか…入っても?」
 
まだ開店しないと言っていながらも中へ入りたがろうとする彼の表情は硬い。
しかし、私には見て取れた。伊達に何年も生きていない。
彼は、私に話があるのだ。買い物をしにきた訳ではなさそうだった。
それは確かだろう。だから私は彼を招き入れた。
カウンターの席に促すと、メニュー表を渡し注文を聞く。
 
「 珈琲で。何も入れずにお願いします」
 
そう聞いて、私は支度を始める。
年季の入ったサイフォンでとっておきの珈琲をいれれば、店内には香ばしい良い香りが広がった。
相手の前に差し出すと、硬かった表情が少しだけ緩むのが見てとれた。
 
「…良い腕をしてますね」
 
一口飲んでそう言えば、こちらも頬が綻ぶ。
 
「ありがとうございます。私の趣味も兼ねてるので、嬉しいですね。」
 
「このお店は一人でやっているのですか?」
 
「ええ、まぁ。」  
 
「なるほど。若いのに立派ですね…アンティークショップですか」  
  
「はは、これでもそこそこに年取っているんですよ」     
 
「幾つですか?」
 
「何歳に見えます?」
 
「はは、質問に質問で返されるなんて。女性相手なら若く言わなければいけないところですけど、見た感じ、貴方は僕より若く見えますけどね」
 
「それはありがとうございます」
 
「本当の歳は内緒ですか?」
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