誰も知らない物語
流星
窓の外の電車の音が妙に頭に響く。
上がどっちなのか考えるのも面倒な状況下だ。
どうやら昨日、呑みすぎたようだ。

夏休み入り早くも十日。
連日の猛暑にバテぎみな俺だが、唯一の楽しみが晩酌。
昨晩は友達も誘い、呑み明け暮れた。

そういえば、去年の夏もこんな状況だった気がする。
…いや、毎日のことか。


大学生になり、始めは勉強にも私生活にも意欲が湯水の如く湧いてきていた。
それなのに、いつからだろ…
とりあえず大学に行き、とりあえず講義を受ける。
そんな生活に変わってしまった。


ドンドン!
玄関の扉を誰かが叩いている。
「守!いるの?」
声を聞いて思い出した。

今日、サークルの集まりがあるんだ。

「守、開けるわよ?」
「あぁ、どうぞ。」
声の主はどうせあいつだ。

「また呑んでたの…好きだね~。」
設楽優香。
優香は同じサークルの仲間であり、
「うるせー、いいだろ。」
むっかしからの腐れ縁だ。

「はいはい、ほら行くわよ。」
「ちょっと待ってろ。」
サークルというのは、文学研究のサークルだ。
陰気くさいと思われ勝ちだが、案外アクティブである。
今日はバーベキューをやりに行く予定なのだ。

「車、運転できる?」
「任せろ。」
準備を済ませた俺は昨日借りてきたレンタカーの鍵を手に握り家を出た。

俺、桜井守。
この一歩が不思議な物語の始まりだった。
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