誰も知らない物語
彼は列記とした人物であったが、自らその存在を消したという。

「どうして?」
美保が聞く。
「竹取物語の最後の話…」
「不老不死の薬か?」
竹取物語の最後は不老不死の薬を捨てるところだ。

「そう、その不老不死の薬ー蓬莱の薬は捨ててはいない。何故、蓬莱が服用したからじゃ。」
「…てことは…。」
「藤原蓬莱は不老不死なのね!」
と全員がようやく分かってきた。

蓬莱は不老不死になった。
だから、今も生きている。
昔の時代から老いることも死ぬこともなく、生きているのだ。

「だから…自分から存在を消した。」
「不老不死であるのを悟られないために。」

そう、もし不老不死と世間に知られれば一大事になる。
この世の理も崩れる。

「そして、その事実を消すために竹取物語を書いたのじゃ。」

なんと、竹取物語の筆者は藤原蓬莱だった。
そして、それだと話が繋がるのだ。

藤原蓬莱は不確定な人物。
その人物が書いた物語、それもまた筆者も時代も不確定なものになる。

「なるほど!」
俺は俺自身が理解できたことに喜んだ。
よくわからないが、歴史の1ページを知れた感じだ。

「これが、竹取物語の“真実”じゃ。」
瑠奈は話を終えると俺たちに微笑んだ。

真実を知った今、俺たちはどうなるのか…と、とても不安でもあった。

瑠奈は一通り話終えると近くにあった饅頭を一口食べた。
なんの躊躇なく食べたところをみると、饅頭というのは竹取物語の時代にもあったのか…それとも、月の世界にもあるのか?

「…それで、俺たちにどうしろって言うん?」
晴彦も饅頭に手を伸ばす。
なんだか、瑠奈に対して既に警戒心はないようだ。
そのフランクさは晴彦らしい。
そのフランクさのない俺は未だに何処と無く瑠奈に対して警戒心を解けなかった。

「蓬莱を探してほしい。」
よくよく考えてみれば、ここで会ってからずっとそう言っている。
それにしても、何故今さらなのだろうか…。

「探すって…倉持くん心当たりある?」
「いや、流石にそんなのに心当たりはない。」
流石の健三ですら知らなかった。

「面白そうだし、探そうよ!」
出た!
なにも考えもしない発言の美保。
「おう、そうだな!」
それに便乗する奴。
「待て、お前ら冷静に考えろ。」
俺の本心が出てしまった。

確かに、面白そうだ。
しかし、何なのかまだ曖昧だ。
それに、情報量が少なすぎて探すにも探せない。

「確かに。守の言う通りだ。」
健三が味方なのは心強い。
…が、しかし、
「俺もこの件に関しては興味深い。だから…期限付きでというのはどうだ?」
俺の気持ちとは裏腹に瑠奈との約束を提案し始めた。
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