誰も知らない物語
『都内で多数の意識不明者、原因は不明。昨晩に都内の数ヵ所で突如意識不明となった者が多数出た。警察、消防の捜査は途中段階であり原因は不明。目撃証言によれば、一人の男性が通った後にその現象が起きたと云う。また、意識を回復した人の話によると、突如体が宙を浮いているような感覚になり意識を失ったとのことだ。今現在死者はいない。』

「怖い事件だな。」
と事件の概要だけを読んだが、十分に危険なことは分かった。
ましてや、まだ原因も犯人もわかっていないのなら尚更だ。

「昨晩の事件か…怖いものだ。」
甲斐さんは既に知っているようで、目を細めながら言った。

世間ではかなりのニュースになっているようだ。
バーベキューではしゃいでいた俺たちはニュースなんて興味がなかった。

「一説にはテロ…なんて言う人もいたな。」
「は、テロ?」
確かに。
そのくらい連想させる事件だ。

「何を言ってるんですか、甲斐先生。」
お茶をいれて帰ってきた優香が俺たちを小馬鹿にするように言う。
「それよりも先生…竹取物語、知ってます?」

そうだ、本来の目的を忘れるところだった。
甲斐さんに竹取物語について何か知っているか聞かなくては。

「竹取物語ってあれかい?」
「…あれって?」
「…今は昔、竹取の翁というものありけり…ってやつ。」
甲斐さんが話したのは竹取物語の出だし。
俺たちを首を縦に振った。
と、いうより…竹取物語ってそれしかないだろ。

「当たり前じゃないか!僕を誰だと思ってる!」
自慢話のように威張る。
まぁー確かにそうなのだが…
「いや、たまに不安な時があるので…。」
「例えば…源氏物語間違えたり、枕草子が読めなかったり…。」
俺たちの鋭い言葉が飛び交ったが、事実である。
古典の教授であれば間違えたりしない…はず。

「坊主も筆の誤りというだろう?」
「その領域を越えているような…。」
「…で、何が知りたい?」
少々気に食わなそうな感じだが、話を強引に戻した。

「実は…夏の課題で竹取物語のその後について調べているのですが…。」
と優香がデタラメを言う。
どうせ、本当の事は言えないのだからいいか。
「うん!いい心がけだ!…で、何を調べているんだ?」
さすがに古典の教授、このての話に食いついてきた。

「竹取物語の最後に富士の山に行くと思うのですが…この時行ったのは『調の岩笠』という男ですよね?」
と優香が一方的に話す。
正直、俺には分からない。
誰だ?…ツキノイワカサって。

「うむ。よく知っているな。確かに、富士の山へ行ったのは調の岩笠という帝の遣いだ。」
人が変わったように話す。
やっぱり…古典の教授だったんだ。

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