誰も知らない物語
真実
「…で、いきなりどうしたのよ?」
と甲斐さんが見えなくなった途端の質問攻めだ。
「優香は鈍感だなぁ。」
久々に優香にこの言葉を使えた。
「守には言われたくないけど…」
不服そうな顔だかお構い無しに、
「お前…なにか隠してないか?」
質問の矛先を瑠奈へと代えた。

瑠奈は相変わらずの一点張り。
しかし、俺は気になる。
気になるから諦めず聞いた。
「本当のこと言えよ。」
「言えないのじゃ。」
「…言えないって?」
やっぱり何か隠していた。
優香も分かったようだ。

「言えないってどういうことだ?」
俺たちは瑠奈の恋人を探す約束をした。
だから、全てを知る権利があると思った。
それなのに、教えてくれないことに少し腹が立った。

「月の話しは地上であまりできないのじゃ。」
「なぜ?」
少し頭に血が上っている俺とは対照的に優香が優しく聞いた。
「歴史が変わるからじゃ。」
「歴史が変わるから?」
「既に、守殿たちの中で竹取物語の歴史は変わったじゃろ?」
言われてみればそうだ。
俺たちは瑠奈に会って知らなかった歴史を知った。

「これ以上そういうことは増やさない方が守殿たちのためなのじゃ。」
すこし納得がいかない。
「…知らなくてはいけなくなった時、私の口から話す。」
瑠奈は必死だった。

その必死の表情に頭から血が引いた。
「守、今は瑠奈さんのこと信じましょう?」
宥める優香が鬱陶しかった。
信じましょうって…いきなり月から来て、恋人探してと言われ、今度はこれだ。
…何をもって信じればいいのか分からなかった。

「すまぬ。」
そういう瑠奈。

結局、今の俺に強行する度胸も知恵もなかった。

夕暮れの道は涼しく、蝉時雨。
つくつくぼうしが鳴いていた。

「とりあえずさ、倉持くんたちのところ行ってみよ!」
優香が必死に思い空気を変えようとしていたのが分かった。
「よろしく頼む、優香殿。」
瑠奈は頭を下げ頼んだ。

信じたい。
でも、その根拠とか…確かなものが欲しかったんだ。
いつだってそうだ。
根拠のないことにはいつも、臆病なんだ。
だから、優香にも言えないんだ。
…たった一言。

二人が先に歩くのを俺は黙って付いていくことしかできなかった。
なんとかして優香が会話と取り持っていたが、あまり耳に入らない。

「守。着くよ?」
気がつけば、健三のアパートに来ていた。
俺のアパートとは違う。
綺麗な新しいアパートだ。
やっぱりできる奴はちがうな。

「おう、どうしたんだ?」
と健三が気さくに出てきた。
ラフな格好にも関わらず、なんか決まっている。
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