誰も知らない物語
「まぁー、守は放っといて…倉持くんどう思う?」
やはり優香は俺のことどうでもいいみたいだ…。
そっちのけで、健三に文学書の話をしている。

「なぁ、守。お前、設楽と喧嘩したのか?」
と小声で晴彦が聞いてきたが、
「別に。」
と言えなかった。
自分で認めたくはなかった。

遠目で優香と健三の話を聞いていた。
作者不明の竹取物語と同じ頃に書かれた本。
内容は二人にはよく分からなかったらしい。
…というのも、竹取物語との関係しそうな内容がないからだ。
帝の生活・富士の山・貴族の文化…
それらしいことはあっても…
「どれが関係あるのか…分からない。」
「でも、甲斐さんに『富士の山へ行った帝の遣いは調の岩笠だけじゃない』って。」

優香と健三。
二人だけで推理が進む。
俺たちには到底分からない領域だ。

「これを読めば分かるって…。」
「いや、悪いが…俺には分からない。」
健三は眼鏡を外し言った。
「へー健三にも分からないことあるんだ。」
「倉持くんにも分からないことあるだ!」
馬鹿にする二人登場。
この二人に当然、分かるわけがない。

「瑠奈さんは何か思い当たる節はある?」
優香が瑠奈に聞く。
しかし、瑠奈は相変わらずの様子だ。
「いいえ。知らない。」
と、ボソッと言うだけだった。

「なんか、瑠奈ちゃんも様子変だよね?」
と今度は美保が俺に小声で聞いてきた。
「あぁ、さっきからああなんだ。」
と俺も小声で答えた。

そうなのだ。
そもそも、こいつがこんなに変な態度を取るから俺だって疑いたくなるのだ。
…だから、優香にあんなことを言われた。

「まっ、いいか!」
と美保は笑ってそれ以上聞くことはなかった。

俺も…やっぱり美保くらいの素直さが欲しい。
優香が言うならば、昔は俺も素直だったのだろうか…。

俺たちの会話をそっちのけで、健三は徐に立ち上がる。
少し唐突だったので皆驚いた。

「その本は後で考えよう。」
と言って、健三は机の上のパソコンを開いたら。
「俺がみんなを呼んだのはこれだ。」
と言ってパソコンを指差した。

全員がパソコンに目を移した。
そこに映し出されていたのはネットの掲示板。
『夏の都市伝説』
というスレッドタイトルだ。

「これが…どうしたん?」
晴彦はもはや面倒臭そうだ。
「真面目に聞けよ。もしかしたら、俺たちには重大なことかもしれないからな。」
いつより口調が厳しい。
その様子に誰もが息を飲んだ。

< 27 / 56 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop