誰も知らない物語
本気でそう思った時、


「…もる!」
視界がいっきに明るくなった。
呼吸が荒いのが自分でもわかった。
体が冷たい、汗をかいているからだ。

「…守、大丈夫?」
顔をあげてみると優香が心配そうに俺を見ていた。
「凄い魘されてたわよ。」
優香はコップに注がれた水を渡した。

「朔夜を見た。」
唐突に話した。
頭で考えるよりも先に言葉が先に出た。
「朔夜?瑠奈さんの兄の?」
「あぁ。」
水を飲み干し、頭を冷やす。

「朔夜はヤバイ奴だ。」
「…でも、夢でしょ?」
優香は怯える俺をなだめるように言う。

「夢は侮らない方がよいぞ。」
瑠奈が割って入ってきた。
「夢は現実と虚ろの境界線。時として現実、時として虚ろとなる。」
冷静な趣で話しをする瑠奈。
俺が見た夢は、瑠奈が月を出る前の一風景だったようだ。

「お前…。」
「恥ずかいところを見られたのじゃ。」
空気を変えようと瑠奈は笑った。

夢を通してだが、瑠奈は相当な決心をしてここへ来ていたのだ。

変な汗をかいたからか、妙に寝起きが良い。
すっかり目が冴えてしまった。

「優香殿、今日はどうするのじゃ?」
瑠奈が初めて食べるパンに感激しながら言う。
…妙にテンションが高い。

「…どうする?守。」
コーヒーを飲んでいる俺にいきなり振ってきた。
どうするも、なにも考えていない。
二人が俺の言葉に何か期待しているようだが、
「さっぱり。」
そう、さっぱりだ。

「…だと思った。」
と野菜ジュースを飲みながら言う。
「んじゃ、優香には考えあるのかよ?」
なんか憎たらしくて反抗してみた。
しかし、呆気なく、
「図書館に行くわ。それも大きなね。」
と得意げに…それも笑いながら言った。

惨敗だ。
「さすが優香殿!」
瑠奈も拍手をしながら笑った。

「…守君は行くのかな?」
ドヤ顔をしながら言う。
めちゃくちゃ腹立つ。
だが、俺には他の考えがあるわけでもなく…
「行きます…。」
まさにネットで言えば…(´;ω;`)こんな感じだ。

「よろしい。」
してやったりという感じが余計にグサッとくる。
こんなときのために、ちゃんと勉強しておけばよかった。

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