誰も知らない物語
勘…って、やっぱり情報を探し出すのは至難の技だと痛感した。

「はい。」
「えっ?…お、おい。」
優香は無造作に本を取りだし俺に渡した。
「当てずっぽよ。片っ端から調べるわ。」
と優香はどんどん本を俺に渡した。
その数…数十冊。
お、重い!

優香は渡し終えると再び歩き始めた。
「お、おい?」
機敏に動けない俺は優香の後を追うのがやっとだった。
「守殿…苦労じゃな。」
と隣で何も持たない瑠奈が言う。
何か持てよ…。

優香は窓際の四人掛けの机に場所をとった。
もたつく俺に手招きをして急がせる。
「はー…重いって…。」
机に上に鈍い音が響いた。
人生初の量の本だ。

「片っ端から調べるわよ。」
と優香は本を一冊取り出して調べ始めた。
この量を目星も付けずに調べる気かよ…と落胆する。
「私も興味深いのじゃ。」
と瑠奈も本を手に取り読み始めた。

「しゃーねーな。」
と俺も本を一冊手に取った。
『宗教を詠む』
…これ。意味あるのか?

これ程まで本に集中したことはなかった。
時を刻むのを忘れてしまうくらいだった。

本に目を向ける。
時計の針とページの音が交錯する。
ときどき窓から吹き込む風。
その風に甘い香りが乗る。
向かいに座る優香は本に集中。

…不老不死。
…フェニックス。
…鳳凰。
…不死。
…富士山。
…富士の樹海。
…鳳凰山。

なんでもいい。
何か手がかりになる言葉を書き出した。
宛のない作業だ。
このくらいしか…できることがなかった。

しかし、一つの言葉に共通点があっても他との関連性がない。
つまり、これでは意味をなさいのだ。
それぞれにヒントがあっても、それが全て“蓬莱”という一つにたどり着かなくてはいけない。

無情にも時計の針は進む。
それにしても、何故健三はタイムリミットを付けたのだろう。
また、それを易々と承諾した瑠奈も不思議である。
これ程まで執拗に蓬莱を探しているのなら、健三の提案を却下してもいいはず。

タイムリミットは明日…八月十五日。

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