誰も知らない物語
『時間がない。賭けるか?』
健三が賭けるか?と聞いてきたのはこのことだったのか。
タイムリミットが近い今、これを外せば致命的なミスになる。
しかし、
『…てか、これしか考えないだろ?』
と笑ってやった。
「確かに。」
優香も笑った。
『満場一致だな。その線で探すぞ。』
健三は満足気に言った。

「倉持くん。でも、目撃情報は本にはなかったわ。」
その線で探すにも鳳凰の目撃がない。
『それなら大丈夫だ。目星はある。』
『目星って?』
焦りのない健三の言葉が不思議だ。

『設楽さんが甲斐さんから借りた本。あれがヒントだ。』
「私の?」
優香は鞄からその本を取り出す。
「この本に鳳凰の話はなかったわよ。」
と優香はページをペラペラ巡り言う。
『…だが、“蓬莱の薬”の動きは分かる。』
と健三は言う。
蓬莱の薬の動きって…。

『かぐや姫いるか?』
と電話越しに瑠奈に話。
イヤホンを瑠奈に渡し、健三の聞きたいことを聞いて貰った。
『蓬莱の薬は直接蓬莱には渡してないだろ?恐らくは…帝。』
と真剣に聞く。
そして、瑠奈は首を縦に振り、
「その通りじゃ。始めは帝殿に渡した。」
『やはり…』
それを聞くと健三は自分の推測を話始めた。

蓬莱の薬は始め竹取物語にあるように帝に渡していた。
『そのあと、帝から奪ったってことか?』
俺は健三に聞いた。
もし、帝が蓬莱の薬を貰ったとするなら蓬莱は帝から薬を奪ったことになる。
…または、蓬莱自身が蓬莱の薬を貰ったか…。

『守、まだまだ考えが浅いな。』
電話越しでもバカにされるのはなんか悔しい。
『帝は蓬莱の薬を捨てたんだ…』
「そうじゃ。私はそれを利用したのじゃ。」
『蓬莱を薬を捨てに行く遣いに志願させるようかぐや姫は仕向けてたはず。』
「私は、蓬莱にそう言ったわ。」
『そして…』

ここまでくれば俺でも分かる。
『手薄な遣いの数の上に移動による疲労。奪うには好条件ってことか?』
『正解。』
健三は続けて言う。
『富士山へ向かった調の岩笠たちは薬を奪われたんだ。藤原蓬莱によって。』
導き出された答え。
しかし、疑問がいくつか残る。

何故、帝が蓬莱の薬を捨てると瑠奈は分かったのか?
何故、そこから蓬莱の居場所がわかるのか?

という二点である。
『その1つ目の疑問なら俺じゃなくて奇しくも晴彦と美保が解いたよ。』
『は?』
この問題を解いたのがあの二人だなんて、俺は信じたくなかったが…。

< 40 / 56 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop