誰も知らない物語
『けれど、ここで一つ重要なことがある。』
健三は答えたに導くために丁寧に説明を始めた。

再会するための方法として文を使う。
確かにこれで居場所を残すことはできるが、蓬莱は不老不死。
この世にあってはならない存在である。
つまり、一定の場所には居られない。
不老不死がバレるからだ。
しかし、
『バレない…バレにくい場所が一ヶ所ある。』
と健三は続けたら。

『富士の樹海だ。』
富士の樹海。
人の立ち入らない森である。
その由縁は様々な俗説にある。
それ故に、自殺の名所でもあり近寄りがたいイメージもある。
あくまでも、俗説なのだが。

『つまり、人が近寄りがたい“ここ”に俺は目星をつけている。』
健三の言うことには少し強引なところもあるが辻褄は合う。
健三の仮説があまりにも凄くて言葉が出ない。
暫くして、
「確かに…蓬莱の薬の最後ー富士山からも近いわ!」
と優香も頷く。

『そもそもこれが居場所を表すヒントってことは、“蓬莱の薬のことが書かれていて作者不明”ということだ。』
『そっか。気づかなかったけど、これも藤原蓬莱が書いたってことか!』

蓬莱の薬のことを知っているのはごく少数。
そして、蓬莱の薬を富士山に捨てたという嘘を明るさまに書けるのは…
「蓬莱だけなのじゃな!」

蓬莱の居場所に山が張れたことで瑠奈は嬉しそうだ。
この数日で一番嬉しそうである。

『俺の仮説は以上だ。正直、これ以上の考えは浮かばない…。』
とここまで真面目に語った疲れか、拍子抜けた感じだ。

『いや、十分すげーよ。』
「倉持くん…ある意味天才ね…。」
あまりの健三凄さにただただ驚くだけだった。

『じゃー俺はもう一調べするよ。じゃあな。』
『あぁ!マジ助かった!じゃあな!』
と通話を切った。

健三が仲間で良かったと痛感する。
思えばこの騒動、健三がいなければ大変なことになっていた。

「倉持くん、すごすぎでしょ…。」
「いや、普通に優香も凄かったけど。」
二人のやり取りに俺はついていけなかった部分もあった。
…むしろ、ほとんどだ。

「まぁ、文学には自信あるから。」
「その領域を超えてる気もするけどな。」
と冷たい水を一口飲んだ。

熱く推理したせいか体が火照っている。
冷たい水がすごくおいしかった。


健三の仮説を三人でもう一度確認しあった。

健三の仮説。
富士の樹海ーつまり、青木ヶ原である。
行き方は携帯を使って直ぐに調べられた。

「河口湖からバスだってさ。」
「なら、すぐ支度して行きましょう。」
「はっ?」
今から行くのかよ。
今から行くとついた頃には夜の真っ只中だろう。
だが、もたもたしている暇もなく、俺は考えた末直ぐに行くことに決めた。

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