誰も知らない物語
流れるような一日がようやく落ち着けた。
電車の揺れが心地よい。
流れる景色もどこか綺麗に見える。
その奥には沈みかけている太陽も見える。

「すないのじゃ。」
と突然謝る瑠奈。
その理由はわかる。
自分の兄が関わっているのだ、聞かずとも分かる。
「気にするなって。」
「そうよ、大丈夫。」
瑠奈の頭を撫でながら優香は言った。

「兄さんは分からず屋じゃ。」
と悲しげな顔をする。
兄妹とこんなに差が出るものなのかと思う。
俺には兄弟がいないからだろうか。
わからない。

「…でも、お兄さんもきっと瑠奈さんの事を思ってのことだと思うわよ。」
そういえば、優香は兄貴がいたな。
会ったことはないけど、聞いたことがある。
「優しさの表れなよ。」
「優香殿は心が広いなじゃな。」
「そうかなー。」
西日に照らされた優香の頬が赤くなるのを見た。

「結局、大したことできなかったな。」
新宿に出たのに何にもできなかった。
とりあえず、朔夜から逃げれただけでもよしとすべきなのだろうが…。
「まぁ、明日は倉持くんたちとも合流できるし…大丈夫でしょ。」
勝手な想像ではあるが、健三のことだ。
用意周到で来るはずだろう。

「…兄さんも追ってくるはずじゃ。」
「だろうな。」
朔夜も追ってくることは間違えない。
「兄さんは夜になれば何処にでも行けるのじゃ。」
「はっ?」
「月の光が届く場所なら何処でも行けるからじゃ。」

さすが月の帝。
できることのスケールが違うわ。
…なんて関心はできない。
つまり、何処まででも追ってこられるってことになる。

「間違えなく、追ってくることわね。」
「ましてや、一度会ってしまったから…。」
と落胆してしまう。
「まぁ、俺たちは蓬莱を探すだけだろ!」
と俺はそんな状況が嫌だったの。
「そうね。」
「そうなのじゃ。」
二人は笑ってくれた。

優香は笑うだけでなく、なんとなくだけど…微笑んでくれた。
ふと目があったけれど、なんか恥ずかしかった。
西日が眩しくて目を反らした。

揺られる電車に体を預け、先を目指す。


揺れる電車。
目的地までは随分と時間がある。
優香は隣で寝てしまった。
今日はずっと本に目をやっていたから疲れているのかもしれない。
優香のおかげで青木ヶ原を見つけられたようなもんだ。

「お前、寝なくてもいいのか?」
反対側の隣では逆に起きている瑠奈がいる。
そういえば、まだ瑠奈を寝ているところを見たことがない。
「私は大丈夫じゃ。」
「そっか。」
別に寝ることを強要するつもりもない。
軽く相づちを打った。

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