誰も知らない物語
俺たちが降りた駅は『河口湖駅』という駅だった。
後から気づいたのだが、ここは路線の終点であり…降りざる得なかったようだ。
河口湖駅というくらいだ。
すぐ近くには河口湖という湖があった。

富士の樹海ー青木ヶ原へはここから路線バスで行くのだが、バスの最終便は既に発車していた。
まぁー時間が時間なのでバスがあっても乗る気は三人ともなかったが…。

「なんか、近くにコンビニはあるみたいよ!」
駅員と話をしていた優香が聞いたようだ。
コンビニがあるならご飯は食べれる!
思えば今日はどたばたな一日だった。

さすがに朔夜がここにいるとは思えないから、今は安心しても大丈夫だろう。
だが、瑠奈の『月のあるところにはどこへでも行ける』という言葉が気になる。
「守、行こう。」
「あぁ。」
健三のように考えてみても無理だった。

駅の近くの唯一のコンビニ。
コンビニのありがたさを切実に感じだ。
おにぎり、パン…弁当。
ある意味なんでも揃っている。
「こんなところで落ち着けるなんてね…。」
と優香は苦笑いした。
「確かにな。」
「兄さんにせいですまないのじゃ。」
「気にすんなよ。」
コンビニの駐車場で各々が買った食べ物を食べながら言う。

なんか…高校生の頃を思い出す。
よく学校の帰り道のコンビニに寄り道したもんだ。
そういえば、あのとき…
「覚えてるか?高校の時のコンビニ事件。」
俺の中ではコンビニ事件と呼んでいるちょっとした事件があった。

「ちょっ、もう掘り返さないでよ!」
「だって、傑作の事件だぜ?」
「見てる方はね!」
優香は紙パックジュースを飲みながら顔を背けた。
「なにがあったのじゃ?」
一方の瑠奈は興味津々に食らいついてきた。

「実はな…。」
「まーもーる。」
瑠奈に耳打ちしようとしたら優香に睨まれた。
睨まれた領域を超えたな、目で殺された。
そんなに嫌なのだろうか。
絶対的に笑えると思うのだか…。

おでん汁、店員ぶっかけ事件…。

あの光景を思い出しただけで笑えてきた。
「もー守!」
俺がにやけているとまた優香に怒られた。

夏とはいえ富士山の麓。
夜にもなれば涼しい。
「長閑ね。」
長閑だ。
車の音はしない。
人混みの音も、何もかもなかった。

「これが本来あるべき姿だと私は思うのじゃ。」
瑠奈が見てきた日本はこんな感じなのだろうか?
電気もガスも…何もない時代。

「瑠奈さんの時代は…どんなだったの?」
優香がアイスをくわえながら聞く。
「地上と月は同じように発展したようじゃ。」
「同じように?」
あまり優香の問いの趣旨に沿っていない感じがした。

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