誰も知らない物語
こう見ると、改めてバランスのとれている仲間だなと感じる。

焼き始めたら匂いにお腹が釣られる。
さっきまであまり気にもしなかった空腹が一転した。
「ありがとうな。」
香りと焼く音に紛れるように優香にいった。
バーベキューの熱のせいか顔が熱かった。

「どういたしまして。」
顔は見なかったがどんな顔しているかわかった。
そう思うとバーベキューの熱が強くなったような気がした。

香ばしい香りと木炭が弾ける音が混ざる。
周りの温度が上がっていく。
でも、そんなことは気にならない。

「肉、うめー!」
「晴彦、頬張りすぎ!」
「馬鹿!高瀬、危ないだろ!」
「美保、怒られてやんの?」
「…晴彦、待てー!」
…この二人、子供かよ。

「あの二人、仲いいよね?」
そっと俺の隣にきてこそっと言う。
「いや、ただのガキだろ?」
「そう?」
ビールを片手に何か変なことでも想像しているかのように言う。
「…でも、羨ましいな…。」
一転した。
「どうして?」
その感じに俺もこう聞かざる得なかった。
「美保みたいに素直になれればいいのになぁーってね。」
普段見せることのない表情で話す。

その表情は届きそうで届かない感じだ。
ふと、健三の方に目を向けると俺に何かを訴えるかのようなサインを送り、晴彦と美保の方へ行ってしまった。

…待て!
この流れ、おかしいだろ。

優香は黙りだ。
炭が空気を弾く。
沈黙の空気に嫌に響く。
さっきまであんなに火照っていた体から急に熱が引いていく感覚があった。

何か、言わないと。

「優香、お前も十分素直だろ。」
そんな言葉しか言えなかった。
その言葉が正解なのか知らない。
とりあえず、この沈黙をどうにかしたかった。
「…ありがとう。」
そう一言。
そしてまた沈黙。

高校の時から一緒だったけれど、こんな沈黙は初めてだ。
「…何か食べる?」
俺は沈黙から逃げるように立ち上がり、聞いた。
「あっ、…じゃあ、とうろもこし。」
「とうもろこし、な。」
今回はいつもと違う。
馬鹿にした言い方もできなかったし、優香の照れ隠しのどつきもなかった。

間違いない。
変な感じだ。

俺はとうもろこしを皿に盛り、優香に渡した。
「ありがとう。」
優香はそう言って、とうもろこしにかぶりついた。
「…美味いだろ?」
なんとか会話をしよう、いつものように戻そうと試みる。
「うん。」

わかってる。
俺だって、きっと優香だって…
でも、それを切り出すきっかけがないんだ。
何かを探してる。
タイミング?
雰囲気?
そんなことをしてたら、こんな日まできてしまった。
いつだって構わなかったんだ。
< 6 / 56 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop