誰も知らない物語
晴彦が俺の脇腹を突っついた。
目をやると笑っていた。
そうなる…よな。

「さっきの川原で大丈夫だろ?」
「たぶん平気!」
楽しそうにしている優香。
改めて考えると足が震える。

「守、なにしてんの?」
入口で突っ立てるままの俺を見て馬鹿にするように言う。
「な、なんでもないよ。」
慌てて中へ進んだ。
「酔ってるの?」
「まさか、俺酔ったことないから。」
「またまたー。」
いつの間にかいつものような感じに戻っていた。
でも、俺はそうはいかない。
今夜は流星群以上に大切なのだ。

夜が来るのにそんなに時間はかからなかった。
シャワーを浴びたり、夕飯を軽く食べたり、後はまたビールを飲んだり…。
時間はたくさんあるが、それを費やすのは早い。

「そろそろじゃない?」
美保が窓の外を眺めながら言う。
時計を見れば十一時を回っていた。
「確かに、そろそろ出てみるか。」

俺たちはバーベキューをした川原へ行き、坂となって丁度よく寝そべられるところで寝た。
寝てみて驚いた。
目の前に広がるのはプラネタリウムよりももっとすごい星空だった。
吸い込まれてしまいそうな世界。
「ねぇ、すごくない?」
隣に寝そべった優香が言う。
隣を見れば優香の顔がすぐそこにあった。
暗闇のせいか距離感が掴めない。
ただ、近いことだけはわかった。
「あっ、そうだな。」
「なによ、淡白な反応ね。」
と笑いながら言う。

シャワーを浴びたからかシャンプーの甘い香りが優香からした。
その香りがより一層星空を綺麗にさせた。

「流れ星、まだー?」
美保が言う。
「じっくり待てよ。」
と一番待てなそうな晴彦か答えた。
「お、流れた!」
「はっ、どこだし?」
集中力の無さそうな二人には流れ星を追うのは大変だな。

「ねぇ、流れ星に何か願い事してるの?」
確かに、流れ星といえば願い事。
「内緒だ。」
「ケチ、どうせまたくだらないことでしょ。」
とちゃかす。

どうせくだらないさ。
言ってしまえばたった二言の願いだ。

「そういう優香はしたのかよ?」
「私の?」
スッと起き上がってしまった。
正直な話、今は流星群だ流れ星だ願いだに関心などいかなかった。

「守が言わないのに言うわけないじゃん!」
と舌を出しながら言う。
「なんだよ、つまんね。」
俺も舌を出して抵抗した。

「あー、なんか喉乾いたわ!」
「ん?あ、俺も俺も!」
と突然、健三と晴彦が立ち上がり言った。
「ちょっとビールとってくるわ、行くぞ晴彦。」
「お、おう!」
「なら、私も行こーっと。」
なんかわざとらしいタイミングだな。
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