ユアサ先輩とキス・アラモード
「今でも優勝できるか怪しいのに、誰を代わりに入れると言うんです。一か月やそこらで実力が付くとは思えません」
「そうでもないかもしれない。みっちりやれば、案外好成績を出せるかもしれないぞ」
「副部長まで!」
「一年女子は全員来ているか?」
「はい!」
「よし、今回メンバーとして選ばれなかった部員は、俺と横尾の前に来て並んで」
真帆は目を白黒させ、湯浅と横尾の前に並んだ。すると彼らの横に、白い包帯で右手を吊った、痛々しい姿の友紀と花が立っていた。
「花ちゃん友紀ちゃん!大丈夫?」
「ごめんねービックリしたでしょ?」
「ううん!とりあえず姿を見て安心したよ」
真帆は二人に駆け寄り、骨折した手をよしよしとなぜた。湯浅の事は一瞬忘れた。
 湯浅と横尾は部屋の隅に行くと、小さな声で話し合いをしだした。五分で戻ってくると、並んだ一年女子を順に見た。
「中林、多田」
「はい」
静かだが威厳のある声で横尾は言った。真帆は湯浅と目が合った。彼の目が鋭く光ったように思った。
「以上、この二人が池間と立木の代わりに新人戦に出る」
「私が?」
真帆と美咲は同時に叫んだ。
「イヤか?」
「い、いえ、めっそうもございません。喜んで出場させていただきます!」
湯浅は、いつの間にか来ていた二年生も含め、場内にいる部員全員を見た。
「そういうわけで、二人を助けてやってくれ」
「はい!」
樹里だけ悔しそうに顔を歪め、チッと舌打ちした。
「だた実力については、今のままでは不安が大いにある」
湯浅は真帆の前に立つと、臆することなくしっかりと見つめた。真帆はドキドキしつつも逃げてはいけない気がし、気合いですべてを受け止めた。
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