ユアサ先輩とキス・アラモード
上機嫌で三本目の矢をつがえ、射った。すると矢は的の遥か上に刺さった。
(ぎゃーっ、やっちゃったーっ!)
後ろから『はぁー』と盛大なため息が聞こえた。チラリと横目で見れば、湯浅が手をおでこにあて下を向いていた。
(だ、大丈夫。あと十射ある。ここで挽回すればいいの。問題ない)
しかし焦れば焦るほど肩に力が入るのかうまくいかない。二重丸の外側ギリギリに当てるのが精一杯。立て続けに五射を、きれいに盛られた安土に命中させた。切望している真ん中には一射も当たらなかった。
(マキシマム、ピーンチ!)
真帆の背中を冷や汗がダラダラと流れた。
 自由練習の時間になると、湯浅がやって来た。彼の表情は険しい。イケメンの険しい表情は迫力がある。真帆は彼の顔を見ていて、昔、父に怒られた事を思い出した。
 小学校一年生の時、学校に行かず近くの公園で遊んでいるところを、出勤途中の父に見つかり大目玉をくらった。その時の父の表情が、今の湯浅とそっくりだった。
(あたしの人生、崖っぷちだ)
湯浅が目の前に立てば、一秒で、大河ドラマに出てくる歩兵隊員のごとく背中をまっすぐにし、アゴを引いて見た。今にも瞬殺ビームが飛んできそうな迫力だ。
「絶望的だ」
「はい?」
「ここまでヒドイとは思わなかった。俺の腕をもってしても、新人戦に間に合うかどうか自信がない。伴緒社に届くよう祈れ」
(一刀両断、キターッ!)
「ともの……?」
真帆はショックのあまり、湯浅の言葉を全部聞き取れなかった。
「トモノオシャだ。京都にある白峯神社に源為義、源為朝を祀り武道と弓道上達の神として信仰されているお方だ。中林はもはや神頼みなくして成績を残す事は不可能だ」
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