ユアサ先輩とキス・アラモード
「そう、そうですよ!先輩はピチピチで教えるのも上手。マジ、最強です!」
「だろう?」
「さ、先輩。練習しましょう。私を名将のごとき腕に仕上げましょう」
「そして俺は弓道の歴史に名を刻む」
「よっ、ミスターパーフェクト!あまりのすごさに、もしかしたら誰かがネットとかに書き込みして、噂が日本中に広まって、テレビ局とか取材に来るかもしれませんよ。うわー、カッコいい!」
すると湯浅は冷ややかなまなざしで真帆を見た。
「同時に、中林のダメっぷりも広がるがな」
突然、真帆は頭の上に、直径50センチほどの金たらいが落ちたような衝撃を受けた。はたから見ると、真っ白に燃え尽きたように見えた。
「いいだろう。乗りかかった船だ、やらない手はない」
「お願いしますぅ……」
真帆は消え入りそうな声で言った。
こうして特訓の日々は幕を開けた。真帆と湯浅を見つめる樹里の瞳からは、今にも殺人ビームが発射されそうだった。
 湯浅はまず、真帆を鏡の前に連れてきた。その鏡は全身が映る横幅の広い姿見。
「よし、まずは斜頸の確認だ。さっき後ろで見ていたが、射るごとに動きがバラバラで一定じゃなかった。だから的中率もあがらない」
「はい」
「そこで、今一度鏡の前に立ち一つ一つの動作を確認しながら素引きしよう。面白い練習ではないが、必ず結果につながるから」
「はい、わかりました」
真帆は左手に押手がけと言う手を保護するものをつけ、弓を持ち、鏡の前に立った。湯浅は右斜め前で腕を組んで立ち、静かに様子をうかがっている。いたって普通である。
 しかし真帆はある事に気づいた。今、彼は、『世界中で真帆だけ』を見ている。他の誰も見ていない。
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