ユアサ先輩とキス・アラモード
「ひゅいまひぇん、もふひまひぇん!ましゅめにひゃりまひゅ!(すいません、もうしません。真面目にやります!)」
湯浅は真帆の顔から手を放した。真帆はゼエゼエ言ってユカを見つめた。
(マジでヤバい。このままじゃ死ぬよりヒドイ生き恥をさらさなければいけなくなる!)
「気をつけろよ。俺は手加減しないからな。博物館に『新種発見』で展示されたくなかったら、真面目に練習しろ」
「了解いたしました」
敬礼した右手に尋常じゃない力が込められた。
 部活を終え家に帰ると、リビングでテレビを見ていた母へ『ただいま』の挨拶もそこそこに、自室に入ってベッドに倒れ込んだ。
「づがれだーっ!」
叫ぶと心に溜まった色んなものが軽くなった気がした。
(久々の基礎練キツかったな。入部したての頃を思い出しちゃったよ。ロクに射法八節もできなかった。毎日毎日、先輩たちの射った矢を的から取りながら『私もいつか先輩たちみたくカッコよくやってみせる!』って熱く心の中で叫んでいた。そして一生懸命、素引きしたりゴム弓で練習して筋肉痛になっていた)
真帆は両方の手を広げてみた。左手にはすべての指にマメができている。沢山矢を射ると痛くなる。
(ずいぶんがんばったよなぁ。入部したばかりのころなんて、なーんにもなかったのに。練習していくうちにできてしまった。触ると痛かった。ガマンしているとマメが破れて、もっと痛かった)
練習中死後は厳禁だが、手当するための会話は許された。
『はってあげる。自分でやると、意外と難しいんだよね』
その当時指導してくれていた先輩のささやかな優しさが嬉しかった。胸にしみた。弓道部に入ってよかったと思った。
(湯浅先輩と仲良くなれるといいのにな)

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