ユアサ先輩とキス・アラモード
彼は優しくないが、できれば仲良くなりたかった。上級生と下級生から少しでも距離を縮めたかった。
(今までは挨拶くらいしかかわせなかったけど、指導者になったから弓道以外の事を話すチャンスはあるはず。突然グッと仲良くなるかもしれない。うまくいけば……つきあえたりして!)
真帆の頭のはスケベな妄想でいっぱいになった。妄想すればするほど、エッチ度は増してゆく。天井知らずで気が付けば、湯浅の新妻になっていた。
(むふふふふふふふふ、あなた、お風呂にします?ご飯にします?それとも、私にします?むふふふふふふふふ……そうだな、今日は『私』にしようか?むふふふふふふふ、そうして湯浅先輩は私を抱き上げベッドルームへ。キャーッ、これ以上は、私には刺激的すぎるわ!)
だらしなくゆるんだ童顔は、純粋な少年の心を地獄の底に突き落とせそうなほど醜悪だった。つい数時間前、湯浅にきつく注意を受けたことなどすっかり忘れていた。
 翌日。真帆は朝から妄想に浸り上機嫌で登校した。今日は一日、良いことした起こらない気さえしていた。
 ところが玄関で外履きから上履きに履き替え廊下に出ると、大好物を食べ損ねて気分を害した子供のようにすこぶる機嫌の悪い樹里に出くわした。せっかくの良い気分を台無しにされそうな気がものすごくしたので、挨拶だけして通り過ぎようとした。
「話しがあるの。ちょっとつきあって」
樹里は真帆の腕をつかむと、人通りの少ない反対側の階段下へ引きずるよう連れて行った。
「あたしはないわ、放してよ!」
当然それはできず、目的地まで最速で連れて行かれた。
(まあ、彼女が言いたい事は、おおよそ見当がつくけどね。
 二人が向かい合うと、樹里がすぐにしゃべりだした。
「湯浅先輩から身を引いて」
(そら来た!)
真帆は心の中でつぶやき、一応同様してみた。冷静に対応すると火に油を注ぎそうだったから。
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