ユアサ先輩とキス・アラモード
「お世辞にもうまいとは言えないでしょ。でも、湯浅先輩は全国トップレベルの人。実力がある人は実力のある人に教えるべきなの。そうすれば必ず結果が出て部は輝かしい歴史を刻む。部員も優越感に浸れるでしょ」
「誰かの栄光にすがるより、自分で結果を出した方が楽しいけど思うけどな」
「勝負は楽しむためにやるもんじゃないの、結果を出すためにやるの」
「木吉さんこそ、楽しむためにやりたいんじゃないの?」
「は?」
「湯浅先輩の事好きなんでしょ?だから私の指導者になってムカつくんでしょ?好きな人がほかの女とイチャイチャしていたら面白くないもんね」
「そんなんじゃないわよ。純粋に勝ちたいだけよ!」
「素直じゃないよねぇ」
「弓道は礼儀を重んじるスポーツよ。淫らな気持ちで挑んだりしたら勝てないわ」
「礼儀を重んじないなんて言ってないでしょ。『好き』って気持ちを認めないのが潔くないって言っているの」
「なんて無礼な人なの、信じられない!」
樹里は目が飛び出しそうなほど開くと、今にもぶつかりそうな勢いで顔を近づけて来た。真帆はちょっと引いた。
「覚悟なさい!今日、湯浅先輩から引きはがしてやるから」
「やれるもんならやってみなさいよ。自分の理想をゴリ押しする人なんかに負けないんだから」
真帆と樹里はキリリとにらみ合った。お互いの目から出た鋭い光がぶつかれは、バチッと火花が散った。
『フンッ!』と言って顔をそむけると、競うように歩き教室へ行った。樹里と真帆のクラスは隣同士だった。
 放課後。授業を予定通り終えると、弓道場へ向かった。朝起きたイザコザによるイライラはほとんど忘れ、いつも通り更衣室に入った。部長の横尾と副部長の湯浅が決めた事を一年生ごときが覆せると思えなかった。
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