ユアサ先輩とキス・アラモード
「さて、蛇とマングースについてだが」
とたん、真帆と樹里は勢いよく顔を揚げた。合格発表を待つ受験生のようである。
(どっち?)
(どっち?)
「なあ、木吉。マングースも、教え込めば弓くらいマシに打てるようになるかもしれないと思わないか?」
(やった、マングース!)
(あたしが蛇……)
勝った真帆はいつになくしたり顔で笑った。可愛い物に選ばれるのはやはり嬉しい。対し樹里は魂が抜けた人のように、真っ白になっていた。
(思った通り。一年生ごときが湯浅先輩の意思を変える事なんてできないのよ)
「おい、マングース。そう言うわけで、今日から居残り練習するからな。覚悟しろ」
「えっ、居残り練習?」
「蛇女にかみつかれて死にたくないだろう。そのためには、しっかり腕を上げて迎え撃たなきゃな」
「そ、そうですね」
「着替えてくる。二人とも通達どおり、学校の周りを十周してこい」
「はーい……」
二人はうなだれたまま玄関へ向かった。降ってわいた災難だが、副部長命令から逃げる事もサボる事もできなかった。
「お疲れ様です」
「おう、お疲れ。じゃ、一年生、後片付けよろしくな」
「はい!」
横尾を先頭に二年生は弓や矢を戻し、更衣室へ入って行った。一年生部員は、いつも通り用具の片付けや的の張り替えをするため、各自移動を始めた。
 そんな中、湯浅は着替えもせず道具を戻しもせず、二十八メートル離れた安土の前で作業をしていた男子部員へ向かって叫んだ。
「田中、一番左の的はそのままにしておいてくれ!」
「何でですか?」
「このあと中林が練習で使う」
「居残り練習するんですか?」
「ああ。終わり次第、中林が張り替えて片付ける」
「わかりました!」

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