ユアサ先輩とキス・アラモード
「返答がないところを見ると、どうやら何もしていないようだな」
「そ、そんな事ありませんよ。たーくさん!しています。もう毎日ブログをつけたいくらい」
「ほほう、ずいぶん自信満々だなぁ。どぅれ、俺に見せて見ろ」
湯浅は顔を近づけてくるなり、真上からのぞき込んだ。真帆は押されるようのけぞった。
 一見すると、キスする寸前のカップルである。
(ギャーッ!近すぎる!湯浅先輩の顔が近すぎる!)
以前、真帆と同じクラスの女子生徒が湯浅を見た時、こんな事を言っていた。
『さすが、ミスターパーフェクト。どの角度から見てもカッコイイわ!』
さらに世界中の本を愛してやまない文学少女は言った。
『彼は天才、ミケランジェロが作った人に違いないわ。陶器のような肌、線対称の目、骨格。バランスのとれた体躯と、時折見せる物憂げな瞳に、醸し出される紳士の雰囲気。ああ、だめ。私のつたないボキャブラリーじゃ、湯浅遼を正確に語る事はできない。それほど全てにおいて素晴らしいわ』
(目の前で見ると、もっと迫力があります!)
真帆の顔は緊張のあまり醜くひきつった。ロマンティックのかけらもない。
 しかし湯浅は、慮る気配を見せない。
「小鼻周りの毛穴が開いているうえ、全体的に脂ぎっているではないか」
「え?」
「はったりがバレバレと言うわけだ」
「いや、もう夕方だから、あ、脂ぎっているんですよ」
「なんだったら、持ち物検査でもするか」
「ええっ!」
真帆はさすがに焦った。
(ヤバい!それはさすがにヤバい!ケア用品なんて、なーんにも入っていないもん!)
「冗談だよ。さ、練習するか」
クルリと背を向け、湯浅は弓を取りに行った。真帆はこっそり胸をなでおろした。
「ああ、中林」
「なんですか?」
「中林の肌は、今時のふつう男子よりヒドイな」



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