ユアサ先輩とキス・アラモード
真帆の後頭部に、女のプライドを打ち砕く矢が突き刺さった。ピキピキと音をたてヒビが入れば、あっと言う間に真っ二つになった。
 とりあえず立ってはいたが、目は白目をむいていた。
(今日、さっそく何か買っていかなくちゃ……)
「おい、ぼーっと突っ立っているな。時間がもったいないだろ」
「そ、そうですねー……」
フラフラしながら真帆は弓と矢を取った。
(が、がんばらなくちゃ。もっと痛い目にあうぞ!)
どうにか気持ちを立て直すと、的前に立ち足をさばいた。胸を張れば、弓に矢をつがえた。
(よーし、行くぞ!)
28メートル向こうにある霞的をきりりとニラみ、矢を放った。シュッツと空を切り、矢はまっすぐ飛ぶ。上にも下にも動かない。タン!と独特の音を立てれば、二重丸の一番内側に刺さった。
(やった、良いとこ当たった!)
「うん、全体的に良い。射法八節をやり直したかいがあった」
「はい、ありがとうございます」
「この結果をマグレにしないためにも、続けてやろう」
「はい!」
真っ二つになったプライドがわずかだが修復された。努力するのは楽しい事だと思った。
 一度うまくいきだすと、どんどんうまくゆく。矢は二重丸の一重目外側がそれを取り囲むようにあたる。的を置いている安土には一本も刺さらない。
 一時間後、真帆はニコニコしながら後片付けをした。
(今日の私、マジで最高!弓道の神がようやく降りてきてくれたみたい。この調子でいけば、新人戦で好成績を残せるだろうな。ううん、優勝できるかもしれない!)
気がつくと、ニンマリ笑っていた。ガマンできなかった。
 後片付けを終え着替えて射場へ出ると、着替え終わった湯浅が腕を組み待っていた。眉間にシワが寄っているところを見ると、何か起こっているらしい。
 ただ、真帆には心当たりがなかった。
 おそるおそる近寄っていくと、湯浅はこれみよがしにフーッと息を吐き出した。
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