ユアサ先輩とキス・アラモード
「そ、そうですかねぇ」
「って、穂乃花は飯を食わなくても、世界一かわいいがなぁー」
カァーッカッカッ!と横尾は歌舞伎役者のように笑った。朝から見事な笑いっぷりである。うっとおしい事この上ない。真帆は『妹さんがうらやましいです』と笑顔で言いつつも、心で特大級のため息をついた。
「やだ、部長。こんなところで会うなんて奇遇ですね!」
すると事態を悪化させる乙女が飛び込んできた。多田美咲である。彼女は今日も『落して見せるわ』オーラ全開の笑顔で横尾に近寄った。
(何か起こるぞ、何か事件が起こるぞ!)
真帆はいつでも逃げられるよう臨戦態勢に入った。
「おお、おはよう多田」
「おはよう、美咲」
「おはようございます部長!今日も制服がよくお似合いですね」
(今、私をメッチャスルーした!見るそぶりさえみせなかった!)
自分を見ようとさえしない美咲に軽くジェラシーを感じ、真帆は思わずニラんだ。しかし美咲は横尾に釘づけだ。目からマシンガンのようにガンガンハートを飛ばしている。
「ありがとう。穂乃花もそう言ってくれたよ」
「私、穂乃花ちゃんよりほめるの上手ですよ。メロメロになっちゃうくらい」
「いや、穂乃花にかなう女なんて、そうそういないさ。俺が今まであった中で、穂乃花が最強にキュートでセクシーな女性だから」
美咲の目に嫉妬の光がきらめいた。もちろん横尾は気づかない。自信満々の表情で親指を立てた。
(いよいよ面倒くさい展開になてきたぞ。頑張れ、アタシ。見極めを間違うと事故に巻き込まれて大変な事になるぞ)
真帆の中で嫉妬が引っ込み、事件勃発を知らせるアラームが鳴りだした。横尾と美咲を交互に見れば、事態の深刻さを物語るよう、美咲の握りしめた拳がブルブルと震え、不動明王の背後で燃える巨大な烈火の炎のごとく、嫉妬の火柱がメラメラと立ち上がっていた。いや、顔も不動明王のごとく険しかった。
 それに対し、横尾は花が咲き鳥がさえずる春の野でスキップをしているかのごとく幸せそうな顔をしていた。美咲の気持ちには一ミリも気づいていない。
(マキシマム、危ない!)
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