ユアサ先輩とキス・アラモード
切れのいい『フンッ!』を言ってそっぽを向くと、二人は同じ方向へ向かって、同じ速度で歩いて行った。横尾は自転車に乗るのをすっかり忘れている。
(すっごい息ぴったりのカップルだよね。ある意味、お互いの良さを認めると最強になりそう)
こっそり感心していると、二人して振り返り真帆を指差した。
「な、何?」
「おい、中林」
「真帆」
「はいっ!」
「この勝負がちゃんと行われるよう、お前が証人だ覚えておけ」
「忘れたら、すっごい恥ずかしい事しちゃうんだから。気を付けて」
二人はまたそっぽを向くと、再び同じ速さで歩き出した。真帆はあっけにとられ、二人の背中を見つめた。視線を背中に縫い付けられたかのように外せなかった。
朝受けた衝撃ですっかり眠気を覚まして教室に入った真帆は、手際よくノートや教科書を机に入れ、目を全開に開いて黒板を見つめた。
(よーし、大丈夫だ。本当に大丈夫だ。これなら間違いなく授業を乗り切れる。睡眠不足なんでへっちゃらだ)
こっそり不敵に笑うと、頭の中に湯浅を思い浮かべた。
(私は成長したのです、先輩。キスの一つや二つ、お安い御用ですわ。今日こそ超モテ子のように、余裕でキスを受けてやる!)
『よっしゃ!』と心の中で叫べば、朝礼をするために入って来た担任を見た。完全勝利の四文字が頭の中にくっきりと浮かんだ。
ところが数時間後、真帆は気絶したように寝ていた。体を二つに折り曲げ、頭は天辺を机にくっつけ、旅行帰りの人のようにぐっすり寝ている。とても授業中とは思えない様である。
あれだけ強気で誓ったのに、抑揚のない穏やかな教師の声は甘美な眠気を瞬く間に誘い、開始五分で至福の昼寝タイムへ落ちた。別名『眠らせの佐藤』。彼の無意識の術を遠ざけるには、授業に意欲的に集中するか、はたまた刺激的で余計な何かを頭の中でこねまわさなければ逃れられなかった。
かくして、前後左右に座っているクラスメイトがあの手この手を使い起こそうとしたが、全身麻酔をかけられた手術患者のようにまったく目を覚ます気配を見せなかった。麻酔が切れるのを待つしかないように思われた。
(すっごい息ぴったりのカップルだよね。ある意味、お互いの良さを認めると最強になりそう)
こっそり感心していると、二人して振り返り真帆を指差した。
「な、何?」
「おい、中林」
「真帆」
「はいっ!」
「この勝負がちゃんと行われるよう、お前が証人だ覚えておけ」
「忘れたら、すっごい恥ずかしい事しちゃうんだから。気を付けて」
二人はまたそっぽを向くと、再び同じ速さで歩き出した。真帆はあっけにとられ、二人の背中を見つめた。視線を背中に縫い付けられたかのように外せなかった。
朝受けた衝撃ですっかり眠気を覚まして教室に入った真帆は、手際よくノートや教科書を机に入れ、目を全開に開いて黒板を見つめた。
(よーし、大丈夫だ。本当に大丈夫だ。これなら間違いなく授業を乗り切れる。睡眠不足なんでへっちゃらだ)
こっそり不敵に笑うと、頭の中に湯浅を思い浮かべた。
(私は成長したのです、先輩。キスの一つや二つ、お安い御用ですわ。今日こそ超モテ子のように、余裕でキスを受けてやる!)
『よっしゃ!』と心の中で叫べば、朝礼をするために入って来た担任を見た。完全勝利の四文字が頭の中にくっきりと浮かんだ。
ところが数時間後、真帆は気絶したように寝ていた。体を二つに折り曲げ、頭は天辺を机にくっつけ、旅行帰りの人のようにぐっすり寝ている。とても授業中とは思えない様である。
あれだけ強気で誓ったのに、抑揚のない穏やかな教師の声は甘美な眠気を瞬く間に誘い、開始五分で至福の昼寝タイムへ落ちた。別名『眠らせの佐藤』。彼の無意識の術を遠ざけるには、授業に意欲的に集中するか、はたまた刺激的で余計な何かを頭の中でこねまわさなければ逃れられなかった。
かくして、前後左右に座っているクラスメイトがあの手この手を使い起こそうとしたが、全身麻酔をかけられた手術患者のようにまったく目を覚ます気配を見せなかった。麻酔が切れるのを待つしかないように思われた。