ユアサ先輩とキス・アラモード
 コンッ、と真帆の頬を誰か触った気がした。
 コンッ、再び真帆の頬に誰かが触った。
 コンッ、今度はこめかみにあたった。
 コンッ、今度は首にあたった。そこは骨だったからか、かすかな痛みがあった。
 さすがに気になり起きると、目の前に、野口秀雄と見間違いそうな出で立ちの、眠りの佐藤がチョークを構え立っていた。一瞬、時代を間違え、まだ夢の中にいるかと錯覚した。
「とうっ!」
眠りの佐藤は言うや否や、右手をまっすぐ突出しチョークを発射した。チョークは空気の抵抗に負けずまっすぐ真帆へ向かって飛んでくると、無防備なおでこのど真ん中に激突した。
「いたっ!」
「良いー叫び声だ、爆睡ムスメ。ユーチューブに見事な寝姿とセットでアップすれば、インド人もびっくりの再生回数をたたき出すかもしれんぞぉー」
ハッとして机のまわりを見回すと、五六本の白いチョークが砕けて落ちていた。
(夢じゃなかったのか!)
チラチラを周りを見回すと、笑いをこらえているクラスメイトと目があった。全員『お気の毒様です』と言いたそうだった。
(ひゃー、やっちゃったーっ!)
「よう、爆睡ムスメ。そりゃー僕の授業はつまらないかもしれない。反論はしないよ。だがなぁ、夜行動物のようにガッツリ寝る事ないだろう」
「す、すいません!」
「僕かぁー、悲しくて悲しくて、あと千本くらいチョークを発射したいよ。いやぁーさぞスッキリするだろうねぇ」
「先生、もう本当すいません!二度と寝ません!どうかカンベンしてください」
「反省はサルでもできるって、どっかのCMで言っていたっけなぁ」
とうとう、クラス中の生徒がクスクス笑い出した。真帆は恥ずかしいやら情けないやらで、小さい体をさらに縮め、殻に入ったカタツムリのように丸まった。
「爆睡ムスメ、少しは反省しているようだが見逃しはせぬぞ。お主にはバツとして、明日日直がやる仕事をかわりにやってもらう」
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