ユアサ先輩とキス・アラモード
「そんな事ないです。慣れていません!今だって、すごいドキドキしています!」
真帆は足元に視線を落とすを、頬をプラムのように赤くして言った。ウブさ全開である。見ていた湯浅はサディスティックな感情を刺激され、満足げに笑った。彼の表情は暴君なのに、エロティックであった。
 もちろん真帆は気づかない。このあと湯浅がどう出るか、微妙な天気で出向を待つ船長のように心を揺らがせていた。
「はっ……」
真帆は感じた事のない感触を首の真上に感じ、全身を硬直させた。お下げに揺ってあらわになった首に、生温かくて弾力があって柔らかな物が触れたのだ。 
 動揺のあまり、頭の中が真っ白になった。しかし感は優れていて、すぐ物の正体がわかった。
(湯浅先輩の唇だ!)
心臓がきゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!と音を立て、全身の毛穴と言う毛穴が縮まった。くまなく鳥肌が立った。唇はすぐ離れたのに、しばらく収まらなかった。
 気づけば胸の前でしっかり手を組んでいた。
(でも逃げてばかりいられない。ちゃんと目を見てキスするって約束したもん!)
もちうる限りの勇気を振り絞り顔を上げた。すると湯浅の熱い視線を十センチ前で見つけた。
「ようやく俺を見てくれたな。もう、今日はダメかと思ったよ」
湯浅がしゃべるたび、彼の吐息がかかる。かかるたび、真帆の緊張は太陽に照らされた氷のように溶けていった。
「さあ、俺とのキスに集中するんだ。他の誰の事も考えてはいけない。父さんも母さんも、兄弟の事も」
ジンワリと唇が触れた。もどかしい感触だ。何より離れない。触れたままだ。緊張しているせいもあってか、鼻で息をするのが苦しい。たまらず唇を薄く開けると、めくるめく陶酔へ誘う空気が流れ込み、脳まで達した。達すれば脳の細胞を酔わせ、真帆は立っていられなくなった。
「おっと」
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