ユアサ先輩とキス・アラモード
自分が淫らに、かつ積極的にキスを迫っている場面を想像し、恥ずかしさのあまり脳細胞が噴火した。足元がよろけた。
「送っていこうか?」
「大丈夫です!」
「体がフラフラしているぞ」
真帆はキリリシャンと立ち上がると、まっすぐ湯浅を見た。
「大丈夫ったら、大丈夫です。一人で帰れます!」
カッコよく言い切れば、鞄を持って射場を出た。いつも通り靴を履いて外に出ると、一秒ほど宙をボーッと見つめた。
 とたん、真帆は両手で口を押さえ、もののけでも見たかのように叫んだ。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そして俊足ランナーも真っ青の勢いで走れば、全力で家へ向かった。
 今宵、昨晩よりは眠れたが、やっぱり睡眠不足だった。
 翌日。ボーッとした頭で登校し、ボーッと一時間目の授業を受けると、美咲が心配そうな顔をしてやってきた。
「ねえ、調子悪そうだけど、どっか具合悪いの?」
「ううん、眠たいだけ」
「昨日も数学の授業中に寝ていたよね……もしかして、朝、コソ練とかしている?」
「まさか!放課後の練習だけでも手一杯だよ。これ以上やったら死んじゃうよ!」
「そう。だったらいいんだけど」
美咲は腑に落ちないと言わんばかりの表情で見た。しかし『湯浅のキスに興奮して眠れない』とは言えなかった。
「ところで、真帆。職員室いかなくていいの?」
「職員室?何で?」
「昨日、数学の授業中に居眠りしたバツとして、今日授業で使う副読本を日直の代わりに取りに行って、かつ配るようにって、眠りの佐藤に言われていたじゃない」
「そうだった!」
真帆は椅子から飛び上がるように立つと、小走りで職員室へ向かった。
「私、用事があって手伝えないけど、ゴメンね!」
「うん、いいよ!」

< 45 / 49 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop