すべて奪って、感じさせて
*すべて奪って、感じさせて*
「こんなつまらないミスをするなんて、君らしくないな」

「申し訳ありません。すぐに先方へ電話……」

「いい。俺がする。君に任せたら、話がもっと面倒になる」

 彼が手を伸ばし受話器を取る。

 苛立ったその動作が恐ろしくて、私の体は今にも震え出しそうだった。

 冷たい視線が私の目を射抜く。彼は受話器を耳に当てたまま、「席に戻れ」と顎だけで命令した。

 泣くことが許されるなら、泣いてしまいたかった。

 でもここは職場。誰もが見ないふりをしながら、私に注目している。

 深く息を吸い込み、背筋を伸ばして一礼。

 彼の視線が背中に刺さるのを意識したまま、自席へ戻った。
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