溶ける彼女
「あたし刺されたよ」
「そりゃ少しは刺されるよ」
「ほら取れてないじゃん!」
そんな細かいこと気にするなよ、と彼は呟いたが、幸いなことに水の音にかき消されて彼女には届かなかった。
「もうあたし蚊取り線香嫌い!」
「じゃあ電気の奴使えば?」
「あれも意味ないんだってば」
「それはもう救いようがないね」
「あたし毎年皮膚科かかってんだよ!」
「虫刺されで?」
「すっごい腫れるの! 酷くない?」
そりゃ大変ですね、と適当に呟くと、彼女が足で水を蹴った。
水は綺麗に彼のほうに飛んできて、彼は膝の辺りを濡らした。